畑村洋一郎・事故調査・検証委員会委員長が22日、日本記者クラブで講演し、福島第一原子力発電所事故調査の進め方などについて語った。
事故調査・検証委員会が発足し最初の会合を開いたのは6月7日で、早速17日には10人の委員の半数が福島第一、第二原子力発電所を日帰りで視察している。
この日の講演で畑村氏は、「事故から3カ月近くたって事故調査・検証委員会をつくるのは、日本という国の信用にかかわること。知りたい時に知りたいことが出てくる文化をつくる必要がある。本来、委員会は事故の1週間か10日後には発足していなければならなかった」と政府に苦言を呈しつつ、「100年後の評価に耐えられるような調査を行いたい」と強い意欲を示した。
「再現実験」と「動態保存」の二つを重視すると語っているのが興味深い。校舎屋上の天窓が破れて児童・生徒が落下する事故が相次いだ例を挙げて、「トランポリンのような遊びができる場所になっていた実態がある。こうしたことは再現実験をしないと見落してしまい、天窓の周囲に柵をつければよいといった不十分な対策で終わってしまう」と、事故調査・検証における再現実験の大切さを指摘した。
もう一つの「動態保存」については、日航機墜落事故(1985年)の例を引いている。発端となった後部圧力隔壁が破壊された姿のまま現在でも保存、展示されている事実を挙げて、その重要性を強調した。調査・検証結果を書面や映像などで記録し、後世に伝えようとしても真実は伝わらない。破壊され、外部に甚大な影響を与えた実物を事故時の状態で保存することによって、後世の人々がその前に立った時、一目で感じ取れるようにすることが大事、という。
委員会自体の議論内容はホームページ上で公開していくほか、次回2回目の委員会から「できれば英語の同時通訳を入れて他国の人たちにも議論している内容が分かってもらうようにしたい」とも語った。
こうした考えにたって調査を進め、12月末に中間報告、来年夏ごろまでに最終報告を、というスケジュールを示している。同時に「福島第一原発の状況が収まらないと委員会の活動も終了できない。来年夏までに最終報告を出して委員会も任務終了となるかどうかは分からない」とも語り、原子炉と使用済み燃料プールの安定的冷却状態を確立し、放射性物質の放出を抑制するという事故収束の見通しについては楽観視していないこともうかがわせた。
一方、現実的な対応を同時に重視していることを示す発言も目立った。海外との文化の違いに何度か触れている。例えば大企業の社長でも議会の公聴会に呼び出され、議員から厳しい質問を浴びせられる米国のようにはいかないということを指摘している。できるだけ多くの関係者から事情聴取すると明言したものの、内容がそのまま公表されると正直に話せないという関係者がいることを想定し、自治体首長、政治家、産業界のトップなど自分の主張を他の人にも知ってもらいたいという人にのみ、了解を得て話した内容を公表する考えを示した。
現在の委員会メンバーの構成は、原子力にかかわったことがある人ははずしている。調査・検証結果が信用されないことを恐れてのことだが、これについても畑村氏は「原子力を本当に知らない委員ばかりでは無理。調査・検証作業の途中から原子力を知っている人にも入ってもらう」との考えを明らかにした。
畑村氏の発言でもう一つ興味深いものがある。「津波対策で高所移転を言うのはよいが、いつか必ず崩れて海の近くに住む人たちが出てくることを想定した復興計画をつくる必要がある」というものだ。こちらは事故調査・検証委員会だけでなく、東日本大震災復興構想会議の議論にも適用されるべき考え方のように見える。