レビュー

貿易・所得黒字はどこへ行った

2009.11.04

 3日、東京国際交流会館で開かれた内閣府主催のシンポジウム「わたしたちの未来を拓くサイエンス-地球・くらし・いのち-」で、パネリスト同士の興味深いが、かみ合わずに終わった観を呈したやりとりがあった。

 「日本は貿易収支と所得収支を合わせて20-30兆円にも上る黒字を毎年、ため込んでいる。ところが日本企業は国内の研究成果に投資して新たな技術・製品開発をしようとしない。日本の研究成果に金を払おうとしているのはむしろ韓国を初めとする外国の企業だ」。こういう趣旨の問いかけが、パネリストの北澤宏一 氏・科学技術振興機構理事長からあった。

 これに対し、パネリストの一人、中村道治 氏・日立製作所取締役(中央研究所長、執行役副社長などを歴任)は、「企業の側に改善すべきことはある」と述べる一方、「大学や独立行政法人の方からももう一歩、半歩われわれに近づいてもらう努力をしてもらいたい」という注文を返していた。

 同じくパネリストの一人、奥村直樹 氏・総合科学技術会議議員(新日本製鐵代表取締役副社長、技術開発本部長など歴任)も、研究成果と製品化との関係を示す図を示し、両者が直結するものではないことを強調した。基礎的な研究成果が実用技術、製品として世の中に出るまでには多くの越えなければならない山や谷があることを指摘したかったものと思われる。

 会場からの質の高い質問が相次いだため、パネリスト間の討論の時間がほとんどなくなってしまったため、残念ながらこれ以上の応酬は聞けなかった。

 当サイトで連載中の前田正史 氏・東京大学理事・副学長のインタビュー記事「イノベーションの議論を超えて」は現在、3回目「産業界にも目利きが必要」だが、この中で前田 氏は「本当の産学連携なんてできない」と言い切っている。

 大学というのは大企業の研究者にとっては常に競争相手。大企業は研究所を持っており、仮に大学が共同研究で非常にいい成果を挙げたとすると、自分たちのレゾンデートル(存在理由)が危うくなるから、というのが前田 氏の主張だ。

 産学連携を進める大学、企業双方の当事者、さらにはそこに資金を提供している機関の担当者には別の意見があるかもしれない。しかし、産学連携というのは掛け声ほど簡単には進まない。その言葉の露出度と期待は相当、大きいけれど…。そう感じる人もまた多いのではないだろうか。

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