開発メーカーであるNECと日立の撤退で、設計の抜本的見直しを迫られていた次世代スーパーコンピュータプロジェクトは、残るメーカー、富士通が担当していたスカラ型に設計を1本化して開発を続行することが、決まったようだ。
文部科学省の次世代スーパーコンピュータプロジェクト中間評価作業部会は17日、理化学研究所が提案していたシステム構成案を承認、それまでのスカラ、ベクトル併用型のシステム構成を見直しスカラ型に一本化しても、当初目標である2012年に10ペタFLOPSを達成できる見通しが付いた、としている。
ベクトル部を担当していたNECは、製造段階への移行を控えた今年5月「今後プロジェクトに参加していくことで発生する百数十億円の負担を避ける」という理由を挙げ、プロジェクト進行途中での撤退を表明した。このとき、ある文部科学省高官は「NECが恐れた負担額はそんな額ではない」と言っていた。もっと高額、という意味だ。国家基幹技術に位置づけられている国家プロジェクトから、相当な自社負担を覚悟で参加していたメーカーが抜け、残るメーカーの方式にシステム構成を一本化、それでも当初の目標能力を達成する。素直に考えれば、プロジェクトにかかる費用も当初より相当膨らむのは避けられない、ように見える。
この点について文部科学省は「ベクトル部がなくなることで120-130億円程度、予算が減ることになるが、各CPUをつなぐネットワークの高速化などのため、プロジェクト全体としては予算規模が増える可能性がある」と説明している。
次世代スーパーコンピュータプロジェクトは、1秒間に1京回(1億の1億倍、10の16乗)の演算を行える世界最高性能のスパコンを目指している。2012年に完成させ、全国の研究者への共用を始めるスケジュールで開発が進められてきた。日本の科学力と産業競争力の強化につながる国家基幹技術として、1,154億円の総事業費が見込まれている。
中間評価作業部会報告は「連携計算を実施する際のスカラ部−ベクトル部間の帯域が十分でないなど、複合システムとしての性能が十分でない点が認識される。さらに、現時点で連携計算が必至な具体的アプリケーションを見出すことができず、複合システムの設計に反映できていない点も問題である」と、むしろ当初の複合システムに問題があったことも指摘している。
中間評価によると、開発実施主体の理研が提案していたスカラ型単独でのシステム構成でも、45ナノメートル半導体プロセスを用いた128ギガFLOPS(現時点で世界最高速)のCPUを採用し、各CPUを3次元トーラスネットワークで直接結合、さらに今回の提案で各CPUをつなぐネットワークの帯域幅(通信速度)を倍増することで、目標性能を達成できる、という。
NEC、日立が担当していたベクトル部は、データを大きな単位で連続的に処理する仕組みのCPUで構成され、大気や海洋の地球規模の大循環解析、航空機や自動車周りの流体解析など、連続的なデータ処理が多い計算に適している、といわれていた。
スカラ型単独でのシステム構成に変更することで、ベクトル型を想定していたこうしたアプリケーションへの影響はどの程度なのだろうか。理研は「ベクトル部の利用を想定していた地球環境シミュレーションプログラムについて、スカラ部単一CPUでも20%程度の性能を確保できる見込みだ」と言っているのだが…。