オピニオン

“覚悟”が必要な日本のエネルギー政策の再構築(平沼 光 氏 / 東京財団 研究員)

2011.09.16

平沼 光 氏 / 東京財団 研究員

東京財団 研究員 平沼 光 氏
平沼 光 氏

日本の高い再生可能エネルギーポテンシャル

 2011年9月13日、野田首相は衆参両院本会議で就任後初の所信表明演説を行った。

 所信表明では、東日本大震災の復旧・復興と日本経済の立て直しを政権の最優先課題として提示。中でも福島原発事故により大きな政策転換を迫られている日本のエネルギー政策の再構築が喫緊の課題として挙げられている。

 野田首相の所信表明では、中長期的に「原発への依存度を可能な限り引き下げていく」ことが目指すべき方向性として示され、そのために、日本の高い技術力を生かし、省エネルギーや再生可能エネルギーの最先端のモデルを世界に発信するということだ。

 すなわち、野田政権におけるエネルギー政策のキーワードは省エネルギーや再生可能エネルギーの普及といえるだろう。

 そうなると、果たして日本には風力や太陽光、地熱といった再生可能エネルギーの十分な資源量があるのだろうかということが疑問となる。

 これまで長きにわたり日本は「資源に乏しい国」とされてきたが、風力発電に必要な風資源をはじめとする日本の再生可能エネルギー資源の状況はいかがなものであろうか。

 その疑問の答えとなる調査結果が、東日本大震災後の2011年4月21日、環境省から公表されている。「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」である。

 この調査によると、発電設備の設置などエネルギーの採取・利用に関する土地の利用の制約要因を考慮して得られるエネルギー資源量、すなわち再生可能エネルギーの導入ポテンシャルについて、例えば風力発電の導入ポテンシャルは19億キロワットという数字が示されている。

 ちなみに、09年度の日本の全発電設備容量が2億397万キロワットということを考えると、非常に高い資源量が見込まれるということになる。また、09年度の日本の風力発電の全設備容量は219万キロワットであることから、さらなる風力発電の導入増大の可能性が示されたと言える。

 火山国日本ならではのエネルギー源として注目されている地熱発電についてはどうだろうか。

 地熱発電の導入ポテンシャルは1,400万キロワット。09年度の地熱発電の全設備容量は53万キロワットであることを考えると、地熱発電においても導入の増大の可能性が示されたと言える。

 また、世界的に見ても日本の地熱資源量はワールドクラスだ。産業技術総合研究所(2008年「地熱発電の開発可能性」)では日本の地熱資源量を約2,054万キロワットと見込んでおり、これは世界第3位の資源量となるのだ。

 かくして、「資源に乏しい」とされてきた日本ではあるが、再生可能エネルギーのポテンシャルは意外や高いものが示されている。こうした高いポテンシャルが示されている再生可能エネルギーであるが、これまでその普及が日本ではあまり進まなかったのはなぜだろうか。

 その理由として、再生可能エネルギーはお天気任せであったり風任せであったりするため電力が安定しないこと、再生可能エネルギーの発電地となる風況がよかったり日射量が多かったりする場所と電力消費地が離れているため送電が困難なことなどが挙げられてきた。

 一方、世界の動向に目を向けてみると日本とは全く違った状況であることを垣間見ることができる。

電力の4割を再生可能エネルギーで賄う国

 2011年3月31日、スペインの送電管理会社レッド・エレクトリカ社(REE社)から日本人にとって大変興味深いニュースがリリースされた。なんとスペインの3月の電力供給において、風力発電が占める割合が他の火力、原子力を超えて最大の電力供給源になったというのだ。

 スペインの3月の電力供給割合は、風力21%、原子力19%、水力17.3%、石炭火力12.9%、太陽光2.6%、その他コンバインドサイクル発電やコジェネレーション発電となっている。実に再生可能エネルギーだけで国の発電の4割以上を賄っていることになる。

 スペインの面積は51万平方キロメートル(日本比135%)、人口4,702万人(日本比37%)、全発電設備容量は1億308万6,000キロワット(日本比51%)、全発電電力量2,957億3,700万キロワット時(日本比31%)、風力発電設備容量1,995万9,000キロワット(日本比866%)となる。

 日本と比較した場合、面積と風力発電設備容量を除きそのスケールの違いがあるとしても、それでもこれだけの規模の国においてその発電の4割を再生可能エネルギーで賄っているというのは驚きを禁じえない。

 日本では実現できていない再生可能エネルギーの大規模な活用がなぜスペインで実現できているのか。そのカギはスペインの発電管理方法と送電網にある。前述した通り、再生可能エネルギーはお天気任せであったり風任せであったりするため電力が安定しないという弱点がある。この弱点を克服するべくREE社はスペイン全土の風力、太陽光、水力などの再生可能エネルギーとコジェネレーション発電の監視・制御を行う再生可能エネルギーコントロールセンター(CECRE:Control centre of renewable energies)という組織を06年6月にマドリッド北部近郊に設立。さらに、07年6月からは設備容量1万キロワット以上の風力発電所はCECREに管理されることを義務付けている。 CECREは、その情報収集センターとして約21カ所に設置されているジェネレーションコントロールセンター(WGCC)をリンクしており、WGCCがスペイン全土の風力発電所やメガソーラー発電所の発電電力量や運用パラメーター情報を吸い上げ、CECREに伝えるとともに、CECREからの各発電所への制御指令を15分以内に実行するという役割を果たしている。

 さらに、特徴的なのは気象予測システムを活用しているという点だ。気象予測システムについてごく簡単に説明すると、天気予報を見ながら翌日に風力、太陽光など再生可能エネルギーでどのくらい発電できるかを計算し、発電量が多ければ火力・原子力など再生可能エネルギー以外の発電を抑え、少なければ火力・原子力発電などの発電量を増やすといったコントロールを行い、風任せ、天気任せといった気象条件に左右される弱点を克服しているのだ。気象予測も取り入れながらの制御とは注目に値する。

 発電地と消費地の距離の課題はどうであろうか。実は、スペインの風力発電の発電地と消費地は必ずしも近距離にあるわけではない。スペインの主な風力発電の発電地はガリシヤ、バルセロナといった地域、そして主な消費地はマドリッド、バルセロナとなっている。バルセロナについては発電、消費が一致していると言えるが、ガリシヤ—マドリッド間、バルセロナ—マドリッド間は距離があり遠隔となっている。

 「再生可能エネルギーの発電地と電力消費地が離れていると送電が困難ではなかったのか?」と思われることだろう。この距離をどのようにして克服しているのだろうか。スペインでは、広域にわたるメッシュ状の送電網(400キロボルトおよび220キロボルト)を採用しており、そこに生まれる送電余力を活用することで再生可能エネルギー発電の大量導入に対応しているのだ。

スペインREE社 再生可能エネルギーコントロールセンター(CECRE)
スペインREE社 再生可能エネルギーコントロールセンター(CECRE)
(出典:REE社HP)

 一方、日本の送電網は「串刺し形」といわれる各電力会社の送電網を連系線でつなぐ形式で、この連系携線の容量が限られて、地域間の電力融通に制限がある状況と言える。

 スペインではこうしたCECREによる全発電のコントロールと、メッシュ形の送電網を巧みに活用することで風力発電の大量導入に成功しているのだ。

 ところでスペインの発送電体制はどのようになっているのだろうか。スペインでは送電管理会社はREE社の1社に対し、発電会社は複数となっている。

 つまり、多様な発電会社の参入を進めて独占を防ぐ一方、そのコントロールは一元化できるように送電管理会社は1社に絞っていると言える。

 現在、日本では発送電分離の議論があるが、スペインの事例を見る限り発電と送電を分離すれば済むという単純な話ではない。要は、多様な発電を導入するとともに、その発電を臨機応変にコントロールできる体制をどのように作るかということが今問われていると言えるのだ。

日本に再生可能エネルギー普及の“覚悟”はあるのか

 さて、野田首相の所信表明で再生可能エネルギーの重要性があらためて示されたわけだが、再生可能エネルギーの普及はなにも野田首相になってはじめて示されたわけではない。それこそ、前政権の菅首相も再生可能エネルギーの普及を表明しており、およそ歴代の政権、また関係省庁はこぞって再生可能エネルギーの普及をうたってきた。

 再生可能エネルギーを普及させるとなると東京電力、関西電力といったいわゆる電力10会社以外に、各地の風力、地熱、太陽光発電などの事業を手がける新規事業者の参入は欠かせない。しかし、実態として新規参入にあたる全国の独立系発電事業者が電力販売に占めるシェアはわずか3%に止まっているのだ。

 これまでさまざまな政権、また関係省庁がその重要性を唱えてきた再生可能エネルギーの普及であるが実態としてその導入が進まないのはなぜなのか。この点は大いに議論し、改善する必要があるだろう。

 そして改善にあたっては当然既存のやり方を大きく変えることも想定しなければならない。それは長年の電力10会社による地域独占の体制にメスを入れることも覚悟する必要があるということだ。

 前述したように、日本には再生可能エネルギー資源の高いポテンシャルがあることが環境省により示されている。そして、実例としてスペインのように電力インフラを整備し国の電力の4割を再生可能エネルギーで賄っている国もある。

 もちろんスペインにもまだ対処しなければならない課題もあろうが、国として覚悟を決めて舵を切った結果が現状のスペインだ。

 こうしたポテンシャルと実例がある以上、あとはわれわれがどこまで覚悟を決めて既存のやり方を改善するかどうかで、その実現性が確固たるものになり、逆にそれがなければ日本の再生可能エネルギーの普及はいつまでたっても不可能と言えるだろう。

 日本の再生可能エネルギーの普及は、技術やコストの課題以前に、われわれがどこまで覚悟を示せるかが最大の課題なのだ。

東京財団 研究員 平沼 光 氏
平沼 光 氏
(ひらぬま ひかる)

平沼 光(ひらぬま ひかる)氏のプロフィール
東京都生まれ、東京都立松原高校卒。1990年明治大学経営学部卒、日産自動車株式会社に入社。同社繊維機械事業部・海外営業部勤務などを経て、2000年に政策シンクタンクの東京財団に入団。現在は同財団の研究員兼政策プロデューサーとして外交・安全保障、資源エネルギー分野のプロジェクトを担当する。専門は資源エネルギー外交。「NHKクローズアップ現代」をはじめテレビ番組のコメンテーターとして多数出演。著書に「日本は世界1位の金属資源大国」(講談社プラスアルファ新書)、「原発とレアアース」(日本経済新聞出版社)。

関連記事

ページトップへ