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寄付が進む社会目指して - 初の寄付白書刊行(大石俊輔 氏 / 日本ファンドレイジング協会 プログラムオフィサー)

2011.02.07

大石俊輔 氏 / 日本ファンドレイジング協会 プログラムオフィサー

日本ファンドレイジング協会 プログラムオフィサー 大石俊輔 氏
大石俊輔 氏

なぜ寄付白書が必要か

 日本の寄付文化の革新のためには、さまざまな課題があります。その課題の中でも、日本社会の「寄付市場」の全体像や変化が見えないこと、すなわち日本には毎年どのくらい寄付など善意の資金の流れが存在するのか、統計的にも不明であることが重要な課題の一つです。

 各国の状況を見てみると、主要各国には米国のGiving USA、オランダのGiving in Netherlands、韓国のGiving Koreaなど、それぞれの国の寄付の流れを明らかにするレポートが民間の機関から発行されており、国内外の寄付への関心や法制度の改正などの面で重要な役割を果たしています。しかしながら、わが国では散発的な統計調査は存在するものの信頼できるデータは非常に限定的であり、また継続的に発行される寄付に関するレポートはないのが現状です。

 このような背景から日本ファンドレイジング協会では、日本で初めてとなる『寄付白書2010 GIVING JAPAN2010』を2010年12月20日に日本経団連出版から発行し、日本の寄付市場の全体を明らかにする取り組みを始めました。

日本の寄付の現状

 寄付白書の発行を通して見えてきた日本の寄付の現状を、以下10の要点で示します。

  1. 日本の寄付市場は1兆円規模。うち個人寄付額は推計5,455億円。これは、2007年の非営利サテライト勘定調査(2,593億円)や2009年の家計調査(1,193億円)と比して、2.0-4.6倍の規模になります。
  2. 法人寄付は総額4,940億円。2008年度からの世界的な経済危機にもかかわらず、寄付支出の対前年比はわずかながらプラスに推移しています。
  3. 寄付の重要性の認識や理解はあるものの、実際の寄付行動につながっていないのが現状です。「日本においてもっと寄付が進むようになるとよい」と答えた人が約60%の半面、実際に寄付を行った人は34.0%。
  4. 年齢を経るごとに寄付行動が生まれやすい傾向があります。また、世帯所得が1,000万円を超えると寄付支出が顕著に上がっています。
  5. 寄付した人のうち2団体以上に寄付した人は66.6%。
  6. 寄付について確定申告しなかった理由は、「寄付金額が控除を受けられる最低金額より小さかったから」(28.7%)、「申告により還付される金額や割合が小さいから」(24.1%)、「申告の制度そのものを知らなかったから」(22.7%)が3大要因。
  7. 遺産寄付の意思のある人は14.7%。特に実物資産が高い層に関心があります。
  8. 助成財団の設立件数が減少しています。他方で全国にNPO基金や地域ファンドが増えています。
  9. ボランティアをする動機の第1位は「団体や活動の趣旨や目的に賛同あるいは共感したから」、寄付の動機の第1位は「毎年のことだから」。ボランティア活動をした人の寄付金額はボランティア活動をしなかった人の2倍以上です。
  10. 2009年から2010年初頭にかけては、新しい公共の円卓会議の開催など寄付が進む環境整備についての議論がさまざまな形で進みました。

2020年に寄付市場10兆円を達成するために

 最後にこれからの寄付市場形成に向けた課題を整理し、重要なポイントを提示してみたいと思います。

 1つ目は、系統的な統計整備が必要なことです。寄付(時間寄付としてのボランティアを含む)に関する系統的な統計データは、寄付を行なう個人や法人、寄付を受けるNPO・NGO、政策立案・制度設計を行う議会、行政のいずれにとっても極めて重要です。官民が協力し、既存の官庁統計の改善も含め、寄付の供給側および需要側の両方から関連統計の整備を進める必要があります。

 2つ目は、NPO・NGOの情報開示と評価を行うことです。寄付を受け入れるNPO・NGOは、法令で義務づけられた情報開示を行うだけでなく、寄付者にとって有用な情報を積極的に開示すべきです。また、行政の協力や中間支援組織などのリーダーシップのもとに、それらの情報を利用しやすい環境整備が進むことが望まれます。

 3つ目は、寄付税制の強化拡充です。寄付税制については、寄付控除対象となる民間非営利団体の数を大幅に増加させることが必要です。また、寄付控除の仕組みを拡充し、税制上のインセンティブを高めるなど、明確な政策的意図をもって寄付税制の拡充強化を図る必要があります。また、確定申告だけでなく年末調整によっても寄付控除ができるようにするとともに、控除限度額を超えた寄付を複数年にわたり控除できる繰越控除制度の導入、シニアの寄付が進みやすいプランド・ギビング(特定寄付信託)税制などについて検討する必要があります。

 4つ目は、民間非営利団体のファンドレイジング力の向上です。民間非営利団体がより多くの寄付者に対して魅力的なメッセージを伝え、寄付されやすい仕組みや仕掛けを提供するために、ファンドレイジング力を向上させることが重要です。今後、こうしたファンドレイジングを行う専門家育成のための教育プログラムを整備する必要があります。

 以上のような取り組みを通じて、寄付大国・日本を目指したいと思います。具体的には、現在年間1兆円規模(GDPの0.2%程度)の寄付(個人および法人の合計)を、長期的には年間10兆円(GDPの2%程度)まで増加させることが目標です。

 日本の寄付市場を拡大し、寄付という行為を日本社会に根付かせていくことは、弊協会だけでできるものではありません。これからも共感しお力添えくださる皆様と共に、日本社会らしい寄付文化を育み、次世代の子供たちに誇りに思える社会を残していきたいと考えています。

・本稿は、『寄付白書2010 GIVING JAPAN2010』を基に執筆された。
参考文献:日本ファンドレイジング協会編(2010)『寄付白書2010 GIVING JAPAN2010』(日本経団連出版)

日本ファンドレイジング協会 プログラムオフィサー 大石俊輔 氏
大石俊輔 氏
(おおいし しゅんすけ)

大石俊輔(おおいし しゅんすけ) 氏のプロフィール
静岡県立嶋田高校卒。2008年法政大学大学院政策科学研究科修士課程修了、同年、特定非営利活動法人せんだい・みやぎNPOセンター。2010年6月から現職。

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