日本記者クラブ主催記者会見(2012年10月4日)から
日本の原子力産業は米国に頼って伸びてきた。米国は日本に原子力技術を提供する代わりに、核不拡散の義務を課した。規制は1974年にインドが核実験をしたのを機にさらに強化された。東海村の再処理実験施設の稼働にストップをかけられ、挙国一致の交渉の結果、1年間でこれだけの量を再処理するという条件付きでようやく許可を得た、という経験を持つ。10年がかりの交渉の結果、再処理、核燃料サイクル利用を事実上、日本の判断でできるという包括同意を盛り込んだ今の日米原子力協定が1988年に締結された。
政府のエネルギー・環境会議は9月に「革新的エネルギー・環境戦略」を決定し、2030年代に原発をゼロにすると言いながら、再処理はする、としている。日本政府から説明を受けた米国は不信感を持ったと思う。再処理してできたプルトニウムをどう使うのか、という詰問に、日本側はおそらくきちんと答えられなかっただろう。
今の日米原子力協定は2018年8月が期限で、半年前の事前通告で破棄できる。米国はいつでも「やめる」と言える立場にあり、今のままで行くと日米の原子力協力関係は非常に不安定なものになる。英国、フランスの大使も官房長官を訪れ、両国に再処理を委託して相当量たまっているプルトニウムと高レベル廃棄物のガラス固化体を引き取ってほしいと言ってきた。米国、英国、フランスのいずれからも日本の原子力政策、特にプルトニウムに関しては不安感が示されているのだ。日本として説明する必要があるが、なされていない。
今、日本が英国、フランスから引き取らなければならないプルトニウムは、それぞれ11-12トンある。国内にある約6トンと合わせると約30トンのプルトニウムを所有していることになる。六ケ所村の再処理施設が運転を始めると、年間4-5トンのプルトニウムが出てくる。
一方、2003年の原子力委員会決定で「利用目的のないプルトニウムは持たない」と日本は国内外に表明している。再処理する時の条件として、利用目的ははっきり決まっているのだ。私が原子力委員だった時の見通しでは、現在建設中の大間原発で年間1.1トンのプルトニウムを使い、さらに軽水炉のプルサーマルで1基当たり年間3-4トンのプルトニウムが消費できるので、50基の3分の1に当たる16-18基でプルサーマルを実施すれば、六ケ所村で再処理した後に出てくるプルトニウムは使い切ることができるというものだった。
ただし、英国とフランスに再処理してもらったプルトニウムは、これに含まれていない。そこで高速炉が必要になってくる。「利用目的のないプルトニウムは持たない」と言う約束を守るには、短期的には大間原発を早く稼働させることに加え、現在ある軽水炉を再稼働する際にプルサーマルを優先させることが必要になる。さらに中長期的には高速炉の建設、運転を考えなければならない、ということだ。
米国をはじめとする世界の流れは、再処理をはじめとする核燃料サイクル技術を持つ国をなるべく増やさないということ。一方、世界各国、特にインド、中国、ベトナムは、ある程度のスピードで原発は増えていく。アラブ首長国連邦に続き、トルコ、サウジアラビアも近く原発建設を決めるだろう。米国から見れば、原子力技術と核不拡散の実績を持つ同盟国、日本が脱落するのは困るということだ。人材確保という観点からみても、廃炉があるから技術は維持できるといっても、廃炉だけで有能な人材は集まらないだろう。
原発が増えてくれば、使用済み燃料の再処理の必要も増えてくる。私見だが、他の国の使用済み燃料の再処理も引き受けるということも、考えたらどうだろう。プルトニウムの需給バランスを日本だけで考えずに。その場合、経営層を国際化してもよいのではないか。
とにかく再処理をどうするのか、きちんと日本政府は説明する必要がある。それができないと非常に困った状況が出てくると思う。
遠藤 哲也(えんどう てつや)氏のプロフィール
徳島県石井町生まれ、城南高校卒。1958年東京大学法学部在学中に外交官試験に合格、外務省入省、在ウィーン国際機関政府代表部初代大使、国際原子力機関(IAEA)理事会議長、外務省科学審議官、日朝国交正常化交渉日本政府代表、朝鮮エネルギー開発機構(KEDO)担当大使、駐ニュージーランド大使、原子力委員会委員長代理などを歴任。福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)の委員も務める。
関連リンク
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