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IPCCをどう変えたらよいか
第1回「クライメイトゲートの衝撃」

プリンストン大学 上席研究員、名古屋大学 特別招へい教授 真鍋淑郎 氏

掲載日:2011年2月3日

特別セミナー「地球温暖化にかかわる政治と科学の一側面」2011年1月21日、名古屋大学グローバルCOEプログラム「地球学から基礎・臨床環境学への応用」主催 講演から

プリンストン大学 上席研究員、名古屋大学 特別招へい教授 真鍋淑郎 氏

真鍋淑郎 氏

 

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2007年にノーベル平和賞を受賞したが、その後、クライメイトゲートとも呼ばれる批判にさらされた。過去1,000年の気温変化を研究するというパイオニア的な仕事をした英イーストアングリア大学グループのeメールを盗んだ人たちが、「イーストアングリア大学のグループは地球温暖化の観測結果を自分たちの主張が通るようにねじ曲げて出している」と言い出したのだ。

そのうちいろいろな人たちがあら捜しをしたところ、特にグループ2(第2作業部会)のレポートにいっぱいあらが見つかってきた。「2030年までにヒマラヤの氷河が10%減る」という記述と「2030年までに全部なくなる」という記述が同じレポートに出てくる、といったことだ。さらに、大部分の世界中の氷河は減っているものの、ヒマラヤでも一番北の高いところの氷河は増えている。アラスカにも増えた氷河はある。そういうこともだんだん分かってきた。

IPCCのレポートは4つある。グループ1(第1作業部会)は、フィジカル・サイエンス・ベイシス(気候システムと気候変動に関する科学的知見の評価)、グループ2(第2作業部会)は、インパクト・アダプテーション&バルネラビリティ(気候変動に対する社会経済システムや生態系の脆弱性、気候変動の影響および適応策の評価)、グループ3(第3作業部会)は、ミティゲーション(温室効果ガスの排出抑制および気候変動の緩和策の評価)を担当している。

ただしグループ2は、アダプテーション(適応策)はあまりやらず、インパクト(影響)に力を入れている。なぜかというと、あまり適応策のことをいうと、第3グループが担当するミティゲーション(温室効果ガスの排出抑制および気候変動の緩和策)がおろそかになるということなのだが、これが問題だ。

グループ2のレポートを虫眼鏡で見るように全部徹底的に見ていったら、あらがばらばら出てきたことで、グループ1のレポートは観測に基づいてきちんと書いてあるのに、それも含め「IPCCの言っていることはでたらめだ」と言う人がたくさん出てきてしまったわけだ。ちょうどコペンハーゲンの国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)が近づいており、参加国の中にも「それ見たことか。IPCCのレポートはでたらめじゃないか」と言うところがたくさん出てきた。

そこで、IPCCのパチャウリ議長と国連がインターアカデミーカウンシルに「IPCCが今まで通りでよいか、それともどのように変えたらよいか」の検討を要請してきた。インターアカデミーカウンシルは、日本学術会議を含む世界中のアカデミーが参加している。私は12人のレビュー委員の一人に指名されたが、それが昨年の5月のこと。委員会はその後3カ月間で、まず、IPCCに対するいろいろな批判などを徹底的に読み、ヒアリングで特に温暖化に懐疑的な人たちをたくさん呼んで話を聞いた。それから、300-400人の人に質問書を出し、その答も全部読んで、報告書を8月中ごろには書き上げた。

IPCCの現状を見ると、レポートの執筆者が約2,000人もいる。私が1990年当時第1次報告書の執筆にかかわったときは400人だった。第2次報告書、第3次報告書、第4次報告書と回を追うごとに増えてきている。この人たちが会うのは1年に1回の総会だけだ。事務局はどうかというと事務局員は10人余りしかいない。大部分は科学者というよりWMO(世界気象機関)などから派遣された人たちである。それですべての業務をやってもらうというのは不可能だ。しかも、レポートの執筆者は2,000人いるのである。管理できるだろうか。パチャウリ議長も航空機で世界中飛び回っているが、IPCCが批判されたような場合、誰に相談できるか。総会は年に1回しか開かれないのだ。

だから報告書でまず勧告したのは、1年に1回の総会と次の総会の間もずっと仕事を続けている人がいなければいけない。パチャウリ議長は忙しくて首が回らない。忙しさのあまり、病気になってもおかしくないくらいなのだから、常勤のエグゼクティブ・ディレクターを指名して議長の片腕としてやっていく態勢が必要、ということだった。

(続く)  

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プリンストン大学 上席研究員、名古屋大学 特別招へい教授 真鍋淑郎 氏
真鍋淑郎 氏
(まなべ しゅくろう)

真鍋淑郎(まなべ しゅくろう)氏のプロフィール
1931年愛媛県生まれ。旧制三島中学(現・愛媛県立三島高校)卒。53年東京大学理学部卒、58年東京大学大学院博士課程修了、同年米気象局(現・海洋大気局)研究員に。68年米海洋大気局地球流体力学研究所上席気象研究員兼プリンストン大学客員教授。97年帰国し、科学技術庁(当時)地球フロンティア研究システム地球温暖化予測研究領域長に就任、2001年帰米し現職。米気象局入局直後から大気大循環モデルの研究にかかわり、海洋大循環モデルと結合させた「大気海洋結合大循環気候モデル」を開発、二酸化炭素(CO2)濃度の上昇が大気や海洋に及ぼす影響を世界に先駆けて研究した。このモデルはIPCCの第1次報告書(90年)に引用され、自身、第1作業部会報告書の執筆者を務めた。米科学アカデミー会員。

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