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世界最大の「模擬宇宙」で宇宙の大規模構造を解明へ 千葉大など国際グループ

2021.09.17

 宇宙の構造をシミュレーションした世界最大規模の「模擬宇宙」を完成した、と千葉大学を中心とした国際研究グループが発表した。国立天文台のスーパーコンピューター(スパコン)を駆使した成果で、膨大なデータでできているこの模擬宇宙は「Uchuu(宇宙)」と名付けられた。研究グループはデータを大幅に圧縮して使いやすいような形式で公開。多くの謎に包まれている宇宙の大規模構造や銀河形成の詳しい解明に役立つとしている。

 宇宙には直接目で見える物質(バリオン)に対し、目に見えず、光や電波では観測できない暗黒物質と呼ばれる物質が存在し、質量換算でバリオンの推定5~6倍程度ある。重力だけが働く謎の物質で宇宙の質量の約8割を占める。暗黒物質はその重力により「ハロー」と呼ばれる塊のような巨大な構造をつくり、ハローの重力により集まったバリオンのガスがその中心部で収縮して星や銀河などを形成。現在の宇宙の構造が作られたと考えられている。

 しかし、ハローの中で銀河などの天体がどのように生まれて進化し、宇宙の大規模な構造を形成してきたのか、その詳細なプロセスは天文学の大きな謎になっている。

 研究グループによると、その謎の解明のために国立天文台が米国・ハワイのマウナケア山頂で運営する「すばる望遠鏡」などで日々天体観測が続けられている。しかし、宇宙の構造形成の歴史に関する情報を観測結果から引き出すためには、物理理論に基づいて作られた模擬宇宙との比較が必要だった。

 模擬宇宙を作るためにはコンピューターを用いて宇宙誕生から現在に至るまで、暗黒物質の重力相互作用のシミュレーションをしなければならない。しかし、これまでの研究で使われたコンピューターの能力では、観測結果との比較に必要なレベルの宇宙の空間的な大きさや精密さを達成できなかった。

 そこで研究グループの千葉大学統合情報センターの石山智明准教授らは国立天文台のスパコン「アテルイII」の全システムを活用することにした。

国立天文台のスーパーコンピューター「アテルイII」(千葉大学・国立天文台提供)

 研究グループは、アテルイIIに搭載された4万200個のCPUコアを駆使した。そして暗黒物質の粒子を2.1兆体の粒子で表現し、それらに働く重力を計算することで暗黒物質が作り出す模擬宇宙の構造を詳細に描き出すことに成功した。「Uchuu」は一辺が96億光年。平均的な銀河の100分の1以下の規模である矮小(わいしょう)銀河から巨大銀河団に及ぶさまざまな質量規模の天体についてその進化を追うことが可能という。

 Uchuuのデータは全体で3000兆バイトにも及ぶが、研究グループは高性能計算技術によって全データを大幅に圧縮。暗黒物の構造形成に特化した約100兆バイトの基礎データとして誰もが使える形式でインターネット上に公開した。

Uchuuによる現在の宇宙での暗黒物質分布。明るい色の部分ほど暗黒物質が多く集まっている。図中の囲みはこのシミュレーションで形成した一番大きい銀河団サイズのハローを中心とする領域を順々に拡大している(千葉大学・国立天文台提供/石山智明氏作製提供)

 石山准教授は「1つの天体の進化を観測で追い続けることは困難だが、このシミュレーション(模擬宇宙)では進化をたどることができる。そのように銀河を観察することで、銀河団やその中に存在する銀河団銀河の形成、進化のプロセスの理解に寄与すると期待できる」とコメントしている。

 国際研究グループには日本、スペインのほか米国、オーストラリア、イタリア、フランス、スペイン、アルゼンチン、チリの9カ国の研究者が参加。研究成果は、英国の「王立天文学会誌」9月号に掲載された。

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