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慢性痛は脳神経回路の過剰反応で起きる 生理学研、メカニズムを解明

2016.04.19

 外傷などが治った後もわずかな刺激で痛みを感じる「慢性痛」は、脳の神経回路が刺激に過剰反応して起きることを、自然科学研究機構生理学研究所などの共同研究グループがマウスを使った実験で明らかにした。慢性痛に悩まされる人は多く、新薬開発につながる可能性があると期待されている。研究成果はこのほど、米医学誌に掲載された。

 慢性痛は「慢性疼(とう)痛」とも呼ばれ、外傷のほか、関節リウマチや椎間板ヘルニアなどがきっかけで生じ、末梢(まっしょう)神経が治っても、わずかな刺激で長い間痛みを感じる。軽症も含めると2〜3千万の人がこの痛みに悩まされているとみられるが、詳しいメカニズムは不明だった。

 共同研究グループは、生理学研究所の鍋倉淳一(なべくら じゅんいち)教授(神経生理学)と山梨大学医学部薬理学講座、福井大学医学部形態機能医科学講座、理化学研究所脳科学総合研究センターなどの研究者で構成。鍋倉教授らは、末梢神経を傷つけたマウスの脳を生きたまま観察できる特殊な顕微鏡で長期間観察した。

 その結果、痛みや触感を感知する大脳皮質の神経細胞周囲にある「グリア細胞」と呼ばれる細胞群の一種「アストログリア細胞」が活発に活動し、「トロンボスポンジン」という糖タンパク質を盛んに放出していることが分かった。また、このトロンボスポンジンの働きによって脳の神経回路の組み換え(再編成)が起きることが判明。さらに一度組み替わった神経回路は、外傷などが治ってアストログリア細胞の活動が収まった後も長期間組み替わった状態が維持されることも明らかになった、という。

 これらの実験結果から研究グループは、一度神経回路が組み替わると抹消神経が治った後もわずかな刺激に末梢神経が傷んだ時のように過剰に反応する状態が続いて慢性痛になる、としている。アストログリア細胞の活動を抑える薬剤を開発することにより、慢性痛の防止につながる可能性があるという。

図 マウス実験や長期間観察のイメージ図(生理学研究所研究グループ提供)
図 マウス実験や長期間観察のイメージ図(生理学研究所研究グループ提供)

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