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神経障害性疼痛を解明、新薬に道開く

2014.05.14

 痛みは時に慢性化して耐えがたい。その神経障害性疼痛の仕組みを、九州大学大学院薬学研究院の井上和秀(いのうえ かずひで)教授と津田誠(つだ まこと) 准教授、増田隆博(ますだ たかひろ)特任助教らがマウスの実験で解明した。神経のダメージで発症する神経障害性疼痛の原因タンパク質としてインターフェロン調節因子5(IRF5)を突き止めたもので、痛みを和らげる新薬の開発に道を開く成果として期待される。5月13日付の英科学誌ネイチャーコミュニケーションズのオンライン版に発表した。

 がんや糖尿病、脳卒中などで神経に障害が起きると、抗炎症薬やモルヒネなどの鎮痛薬が効きにくい慢性痛が発症する。対症療法の薬はあるが、詳細な仕組みがわからず、根本的な治療法はない。研究グループはこれまで、脳や脊髄の細胞の5〜20%を占めるミクログリアが、神経損傷後の脊髄で活性化した状態にあり、それが慢性的な痛みを引き起こしていることを明らかにしてきた。

 痛みへの関与が今回わかったIRF5は、神経の損傷後に、脳・脊髄の免疫細胞と呼ばれるミクログリアの中だけで増える。IRF5を作り出せない遺伝子操作マウスでは、神経損傷後の痛みが弱くなっていた。さらに研究グループは、P2X4受容体というタンパク質のミクログリアでの増加が神経障害性疼痛に重要であることを、2003年に英科学誌ネイチャーで発表しているが、IRF5こそがP2X4受容体を増やす実行役であることも確かめた。

 IRF5は、IRF8によって調節されることが既にわかっている。発見した知見をまとめて、研究グループは「神経損傷後、IRF8によってミクログリアでIRF5が増え、それがさらにP2X4受容体を増やすという一連の流れが、神経障害性疼痛を引き起こす」と結論づけた。

 この研究を率いる井上和秀教授は「神経障害性疼痛の仕組みがほぼ判明した。これで根本的な治療薬を開発できる。新薬の開発に着手しており、見通しはある。P2X4受容体か、今回わかったIRF5の阻害薬などが有望だろう」と意欲を見せている。

九州大学の井上和秀教授のグループが解明した神経障害性疼痛の仕組み
図. 九州大学の井上和秀教授のグループが解明した神経障害性疼痛の仕組み

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