痛みを抑えるために主に脳内で作られる物質(脳内マリファナ)が、切断された神経の再生を妨げる働きもすることが、名古屋大学大学院理学研究科の松本邦弘教授らの線虫を使った研究で分かった。神経再生のためには“痛み”も必要なのかもしれないという。
研究グループは、ヒトの体内でも、けがをした時などに痛みを和らげるために脳や末梢神経などで作られるマリファナに似た構造の物質「アナンダミド」の作用に着目した。神経(長く伸びる「軸索」)を切断したままの線虫(C.エレガンス)では約65%の軸索が再生したが、アナンダミドを投与した線虫では約25%しか再生しなかった。アナンダミドは「三量体Gタンパク質」と呼ばれる細胞内の因子を介して、軸索再生のシグナルを妨げていることも突き止めた。
今回の研究結果は、直ちにヒトにも当てはまるものではないが、アナンダミドによる同様な作用はヒトでも起きている可能性があり、ヒトの体内で合成されたアナンダミドの量が多いと、より強い鎮痛反応を誘導し、同時に軸索再生も阻害することが推測される。このことは「切断神経に痛み(再生痛)がある方が、神経機能の回復が起きやすい」という臨床的な経験則にも符合しており、「欧米などで神経性疼(とう)痛の治療に用いられている医療用大麻などの投与は、もしかすると痛みの緩和と引き換えに軸索再生の機会を奪っているのかもしれない」という。