ニュース

iPS細胞にがん免疫治療への応用期待

2010.06.02

 iPS細胞の利点を活用することでがん免疫治療への応用が期待できることを、理化学研究所の研究グループがマウスを使った実験で確かめた。

 理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターの古関明彦・免疫器官形成研究グループディレクター、渡会浩志・免疫制御研究グループ上級研究員らは、既にヒトへの臨床研究が進むリンパ球「ナチュラルキラーT細胞」によるがん免疫治療に、山中伸弥・京都大学教授が開発したiPS細胞誘導技術を活用することを試みた。

 マウスの脾臓(ひぞう)から採ったナチュラルキラーT細胞から山中教授と同じ方法でiPS細胞を作成、さらにそのiPS細胞からナチュラルキラーT細胞をつくりだすことに成功した。この成果のポイントは、皮膚からつくられたiPS細胞ではナチュラルキラーT細胞以外のがん治療に役立たないリンパ球までできてしまうのに対し、iPS細胞から分化したリンパ球がすべてナチュラルキラーT細胞になることだ。

 黒色腫(しゅ)にかかったマウスにこの方法でつくったナチュラルキラーT細胞を入れてやると、がんの転移や再発を抑える効果があることが確かめられた。

 ナチュラルキラーT細胞はリンパ球の一種で、理化学研究所の谷口克・免疫・アレルギー科学総合研究センター長らが1986年に発見した。強力な免疫増強作用を持つことが知られている。研究グループは千葉大学と連携し、ナチュラルキラーT細胞を活性化して、肺のがん細胞を攻撃する新しい治療法を開発、これまで17人の肺がん患者に対し、第2段階(小規模の患者が対象)までの臨床試験を終えている。初回治療だけですべての患者に延命効果があることが確かめられたが、治療効果が高かった患者は体内にナチュラルキラーT細胞が多いことが明らかになっている。

 体内でナチュラルキラーT細胞だけを大量に増やすことは難しいことから、研究グループはナチュラルキラーT細胞からいったんiPS細胞をつくり、再び大量のナチュラルキラーT細胞をつくる技術の開発に挑んだ。

 今後、千葉大学と進めている臨床研究にこの方法を応用したいと、研究グループは言っている。

 この研究成果の一部は、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(CREST)の研究課題「ヒトiPS細胞の分化能と腫瘍化傾向を反映するマーカー遺伝子群の探索」(研究代表者:古関明彦・理化学研究所免疫器官形成研究グループディレクター)によって得られた。

関連記事

ページトップへ