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ロボット教育×SDGsで「みんなが笑顔になれる」社会をつくる《TEAM EXPO 2025追手門学院大手前中・高等学校ロボットサイエンス部》【大阪・関西万博連携企画】

2021.06.03

追手門学院大手前中・高等学校ロボットサイエンス部の部員たち

 学校のクラブ活動の枠を越え、数々の本格的な「ロボット・プロジェクト」を実現してきた、追手門学院大手前中・高等学校ロボットサイエンス部。その取り組みは、世界的なロボットコンテストの入賞から、社会問題を解決するロボットの開発、地域の人々へのロボット教育まで多岐にわたる。生徒たちが自らテーマを設定し、協力しながら課題を解決し、情報発信する取り組みは外部からの評価も高い。2025年日本国際博覧会協会が大阪・関西万博に向けて進めている「TEAM EXPO 2025」プログラムの「共創チャレンジ」にも登録されている。「ロボット開発を通してよりよい社会をつくろう」と活動する中高生たちの、ユニークな取り組みを紹介する。

世界最高峰のロボットコンテストに挑戦

 大阪城天守閣を目の前に望む、歴史を感じさせる学校の門を抜けると、それとは対照的な新しいプレハブの建屋がある。その中では、30名ほどの生徒がグループに分かれて活動していた。話し合う生徒やコンピューターの画面に向かう生徒、レゴブロックで何かを作る生徒もいる。ここは、追手門学院大手前中・高等学校ロボットサイエンス部の部室「テックラボ」だ。

自分たちでテーマを決め、協力しながら「ロボット・プロジェクト」に取り組む

 部屋の前方で「レゴ・マインドストーム」で作ったロボットが、さまざまな色のブロックを運んでいた。その様子を真剣に観ているのは、WRO(World Robot Olympiad:自律型ロボットの国際コンテスト)に挑戦する3人のチーム。

 「競技中はロボットの操作ができないので、すべての動作を先にプログラミングする必要があります」と、ソフトウエア担当の中村さんが解説する。「中村君がプログラミングできるように、コミュニケーションを取るのが難しいです」と別のメンバーが言うと、中村さんは「僕がむちゃぶりするから」と返す。その横からもう一人が「たまには喧嘩もしますけど」と口を挟む。そんなやりとりから、より良いロボットを目指す、チームワークの良さがうかがえる。
「今年は全国で1位をとって、世界大会に行きたいです」という彼らの言葉には、静かな自信が感じられた。

世界的なロボットコンテスト「WRO」に挑戦する3人。過去の大会で上位入賞した「つわ者」揃いだ。右から中村さん、西住さん、清水さん

先輩の技術を受け継ぎ、発展させた盲導犬ロボット

 WROチームのすぐ後ろに、病院や信号、道路を模したミニチュアの「街」が作られ、その上に犬の形をしたロボットがちょこんと座っていた。「盲導犬ロボット『あいドッグ』です」と、チームの情報発信担当、古本さんが声をかけてくれた。「現在、国内で盲導犬を必要とする人は約3000人いる一方、盲導犬は1000匹もいません。この問題を解決するために開発しました」

 あいドッグを起動すると「ドコカラドコヘ、イキタイデスカ?」と聞いてきた。「自宅からスーパー」と答えると、あいドッグは動き始める。道路に埋め込まれた点字ブロックをたどって自律走行し、障害物を迂回(うかい)して赤信号の前で停止、青信号でまた進む。目的地に着くと、尻尾を振って止まった。

 あいドッグは、先輩たちが作った1号機を引き継ぎ発展させた2号機だという。段差を超えられるようにタイヤを大きくし、信号の認識率を向上し、小型化した。近々、公道で実験するため、階段を上がれる四足歩行ロボットも開発中だ。「みんなが笑顔になれる社会を目指します」と、古本さんはデモを締めくくった。

声で指示した目的地に自動走行で向かう盲導犬ロボット「あいドッグ」

IoT電源タップで気候変動問題に貢献

 伊賀さんと南方さんが開発したのは、電源のオン・オフや出力を遠隔操作して電気の浪費を防ぐ「IoT電源タップ」だ。南方さんがIoT電源タップにつながった扇風機の風量を調整するデモを見せてくれた。

 「気候変動」というテーマに対し、二人は、どんな課題をどう解決すればよいかを、顧問の福田先生も交えて何度も話しあったという。ロボット開発の経験が浅かった伊賀さんは最初、「南方君の言うことは知らない言葉だらけ」だったそうだ。「でも、自分で調べて理解して、どうすればもっと伝わるかを考えてこれを作りました」と、開発概要をわかりやすくまとめたポスターを指さす。

 一方、ロボット開発の経験に富む南方さんは、意外にも中学の時は「暗かった」という。ロボットを開発していくうちに、少しずつ自分の技術に自信を持てるようになったそうだ。「先輩たちの姿を見て成長できたと思うのですが、その先輩たちが『自分たちよりすごい』と言ってくれて」と、南方さんは少し照れくさそうに話してくれた。

スマートフォンなどの遠隔操作で世の中の電気の浪費を防ぐIoT電源タップ(左)。2020年のWRO全国大会・オープン部門で最優秀賞を獲得した。SDGs達成にも貢献するプロジェクトだ

ロボットを使ったSDGsセミナーで情報発信

 部長の山本さんのチームは、ロボットを通してSDGsと地球環境問題を考えるセミナー「Save Our Earth」の企画・運営に取り組んできた。床上の大きなジオラマは、さまざまな環境問題を模型で表現している。セミナーの参加者はこの上でロボットを操作して、家の中の電灯を消したり、ペットボトルと空き缶を分別したり、海のゴミを取り除いてきれいにして、楽しみながら環境問題を学ぶことができる。

 参加者にとって分かりやすく、楽しんでもらえるデザインにするのに苦労したと、模型の作成を担当したメンバーは言う。「今回は『押す』動作だけでミッションが完成するよう工夫しました。『押す』ボタンで家の電気が消えるんですけど、それを見た子どもたちが『おー!』と言ってくれて」と語る彼らもセミナーの運営を楽しんだようだ。

 このセミナーには、大阪だけでなく、近隣地域からも声がかかるそうだ。開発だけでなく、活動を発信することも大事、という山本さんは、大学でもプログラミング教材の開発と発信を続けていきたいという。また、副部長の宮川さんは、「もともと興味を持てることがなかったけれど、今はプログラミングを通して自分の長所を生かせる仕事に就きたいです」と将来への思いを語った。

ロボットを通してSDGsと地球環境問題について理解してもらうセミナー「Save Our Earth」で使う手作りのジオラマとメンバー

実用的技術を競う、ロボカップジュニア・災害救助ロボット

 迷路のようなフィールドを1台のロボットが動き回る。そのまわりには「ロボカップジュニア・レスキューメイズ」に挑戦する生徒たち。迷路は被災地を模し、被災者にいち早く救援物資を届ける想定の競技だ。迷路の形状は毎回変わり、瓦礫を模した障害物はランダムに置かれる。「どんなフィールドでも通れるように、試行錯誤しながらプログラミングしています」とソフト担当のメンバーが言う。「技術も学べて、社会の役にも立つところが魅力です」

 高校生のチームに、一人、中学2年生で参加する藤村さんは「同学年だけだと分からないことも、上級生から吸収できる」と、学年を超えた交流の魅力を語る。最初はとまどったものの、先輩とともに活動する中で少しずつ仲を深めていったという。「先生ではなく、先輩が後輩に教えるという教育方法なんです」とチームリーダーの惠川さんがつけ加えた。

 実用的な技術を競うロボカップジュニアは、強力なライバル校も多いという。「加工設備を持つ学校は、本格的な金属製のロボットを作ってきます。私たちは力(設備)では勝てないので、プログラミング(知識)で戦います」。その言葉には、ソフトでは負けないぞ、という自負が感じられた。

先輩と後輩が協力しプログラミング力で勝負する「ロボカップジュニア」チーム

企業と共同で開発した流出石油回収ロボット

 部屋の奥でひときわ目を引いたのが、他のレゴ製ロボットとは違った、水車のような真っ白な機械。惠川さんと倉冨さんが開発する流出石油回収ロボットだ。「モーリシャスの石油流出事故をきっかけに開発を始めた」と倉冨さんはいう。部の活動で知りあった企業が製造していた水質浄化剤とロボット技術を組み合わせて、流出石油を回収するアイデアが生まれたという。

 2人が考えた機械模型「真っ白な水車」は3Dプリンターで試作したもの。その試作費用を得るために、技術開発を支援する財団の助成金に応募した。「自分たちで支援先を探すのは、部では珍しいことではありません」と惠川さんは言う。「福田先生も探してくれますが、基本は自分たちで見つけてプレゼンしに行きます」

知り合った企業が作る水質浄化剤を利用して開発した流出石油回収ロボット。試作機用の3Dプリンターは獲得した助成金で購入、大学の先生や企業にも意見を求めて試行錯誤しながら作成した

一番うれしいのは生徒の成長を見ること

 今回の取材中、顧問の福田先生は、説明をすべて生徒たちにまかせ、まったく口を挟むことはなかった。生徒たちも、それが当然と、自分たちの取り組みを自分たちの言葉で伝える。福田先生は「大会に出た生徒たちは、本当にしびれるようなプレゼンをしてくれます」と言いながら、実は、運動部に入りたくても入れなかったり、少し引っ込み思案だったりといった生徒も多い、と付け加えた。そして「そんな子どもたちが成長し、光が当たるのを見るのが一番うれしいんです。それがあるからこそ続けられます」と笑った。

生徒たちを側で見守る顧問の福田先生

【コラム】

 2015年に阪神電鉄・読売テレビが部を視察し着想を得て、翌年ロボット教室「プログラボ」が開校された。福田先生の教育理念をフリップ提示した10分間のブランドムービー動画。部活動やロボットも紹介されている。

「Sign」
■プロフィール 追手門(おうてもん)学院大手前(おおてまえ)中・高等学校ロボットサイエンス部

追手門(おうてもん)学院大手前(おおてまえ)中・高等学校ロボットサイエンス部
2014年4月、福田哲也教諭を顧問として中高6人の部員で発足。以来、「社会課題に向き合い、SDGsの課題解決を目標としたロボット開発活動」に取り組んでいる。2020年「大阪の若者が挑むSDGsを解決するためのロボット開発プロジェクト」として「TEAM EXPO 2025」プログラムの「共創チャレンジ」に登録された。

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