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こっそりサクッと…都市のタヌキとアナグマ、気遣いの食生活 農工大

2022.04.07

青松香里 / JST「科学と社会」推進部

 野生動物の活動が都市部にも及び、農作物の被害や鳴き声の騒音、交通事故など、人間への影響をしばしば見聞きする。一方、動物たちは都市部にいることでどんな影響を受けて暮らしているのだろうか。その理解の手掛かりとなる成果を、東京農工大学などの研究グループが発表した。タヌキとニホンアナグマが、人目を避けるような時間帯と場所で、短時間に食事を済ませているというのだ。

タヌキ(左)とニホンアナグマ(東京農工大学提供)
タヌキ(左)とニホンアナグマ(東京農工大学提供)

きっかけは犬の散歩

 都市化が影響する程度は、野生動物の種によって異なる。海外ではさまざまな生物種について、大規模都市開発による行動変化を調査することがあるのに対し、日本では昆虫や鳥の例はあるものの、哺乳類では行われてこなかった。

 そこで、東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院教授の小池伸介さん(生態学)らは哺乳類に注目し、生きる上で重要な食事の行動を調べることにした。タヌキとニホンアナグマについて、都市部と山間部で果実の食べ方に違いがみられるかどうかを観察した。タヌキは都市部に多く生息する野生動物の代表格で、ニホンアナグマは最近、都市部に進出してきた動物だという。

 この研究は、犬の散歩という日常のひとこまから始まった。同大大学院連合農学研究科博士特別研究生の大杉滋さんは、飼い犬が道端の木の実を食べる行動がずっと気になっていたそうだ。小池さんに相談し、さまざまな動物が落ちている木の実を食べる様子を調べることにした。

 調査2年目のこと。野生のイノシシが調査対象の樹木を頻繁にひっくり返してしまうため、対象地域に柵を設けて入り込まないようにした。すると、動物たちの行動パターンが大きく変化した。「イノシシを排除したことで、他の動物が食事の場所や時間を変えた」(小池さん)。環境の変化によって動物たちが食事行動を変えるのではないかと考え、別の場所でも調査を重ねることにした。

夜のうちに、すばやく

 小池さんらは人間活動が活発な都市部の森林と、人間活動がほとんどない山間部の森林で調査した。都市部は東京都三鷹市にある国際基督教大学のキャンパス、山間部は八王子市の森林総合研究所多摩森林科学園の試験林を選んだ。タヌキとニホンアナグマが木から落ちた果実を食べる様子を、体温を感知できるカメラで撮影した。

ヤマザクラの果実を食べるタヌキ(左上)とニホンアナグマ(右上)。グラフは1回あたりの食事時間で、どちらも都市部で著しく短かった(東京農工大学提供)
ヤマザクラの果実を食べるタヌキ(左上)とニホンアナグマ(右上)。グラフは1回あたりの食事時間で、どちらも都市部で著しく短かった(東京農工大学提供)

 その映像から、まずはヤマザクラの果実を食べた回数を数えた。山間部では11本の木を計523日間、都市部では5本を計183日間にわたって調査。これらの期間に観察した食事は、タヌキが山間部で61回、都市部で23回。ニホンアナグマが山間部で53回、都市部で24回だった。

 このとき小池さんらは、都市部では夜間に食事をする頻度が、山間部よりも高いことに気付いた。山間部のタヌキは2割ほどが昼間だったが、都市部では23回全て夜間だった。二ホンアナグマも、山間部で夜間が8割ほどだったのに対し、都市部では約96%にも上った。

 次に、1回あたりの食事時間を調べたところ、どちらも山間部より都市部で著しく短いことが分かった。都市部のタヌキとニホンアナグマは夜の暗い時間帯に、素早く食事を済ませる傾向があるといえる。

たくさんより、こっそり食べたい

 では、どんな状態の樹木を選んでいるのだろうか。タヌキが好むイチョウと、ニホンアナグマが好むムクノキで調べた。すると都市部では、果実がたくさん実っている木よりも、木の根元が藪(やぶ)で囲まれるなど周囲から見えづらい木を選ぶ傾向があった。

 効率よく食事するには、果実がたくさん実っている木を選んだ方がよいはずだ。実際、鳥やサル、クマなどの果実を食べる野生動物は、実りの多い木を選ぶ。しかしタヌキとニホンアナグマの場合、効率よく食べることより、人間に見つからないことが重要と考えているようだ。「危険を避けて、できるだけ楽に食事をするために、周囲に見つかりづらい行動を選択している」と小池さんはみる。

草が生い茂る場所で食事するタヌキ(中央)=2018年5月(東京農工大学提供)
草が生い茂る場所で食事するタヌキ(中央)=2018年5月(東京農工大学提供)

 研究グループは東京農工大学とブラジル・サンパウロ州立大学で構成。成果は日本の哺乳類学専門誌「ママル・スタディー」電子版に2月15日付で掲載された。

 タヌキとニホンアナグマは、食事という生きるのに不可欠な行動を変えることで都市環境に適応していることが分かった。小池さんは「『タヌキは人間を気にしなくなった』ともいわれるが決してそうではなく、人間をとても気にしながら生活している。野生動物との共存を考えるなら、彼らが安心して食事できる場所を確保し、守っていく必要がある」と提言する。

 筆者もしばしば食事をサクッと済ませてしまうが、本来は気心の知れた友人や家族と共にゆっくり楽しみたいものだ。タヌキとニホンアナグマも、人間に気を遣う食事を望んでいるわけではないだろう。地上は人間だけのものではない。野生動物たちへの配慮は、都市部の人々が自然の豊かさを少しでも感じることにも、つながるのではないだろうか。

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