ツキノワグマについて、秋にドングリが不作だとメスや若いクマが昆虫を多く食べるなど、性別や年齢による食生活の違いが初めて分かった、と東京農工大学などの研究グループが発表した。ツキノワグマは本州と四国に生息するが、地域によって絶滅の恐れが指摘される中、保護や管理に役立つ成果という。
グループは2003〜13年に栃木、群馬両県にまたがる足尾山地、日光山地でのべ148頭のツキノワグマを一時捕獲し体毛を採取。ここから、食生活で変化する炭素と窒素の安定同位体比を測定し、夏と秋の食べ物を推定した。
その結果、夏には1〜4歳の若いクマより5歳以上の大人のクマの方が、またメスよりもオスが、ニホンジカを多く食べていた。シカは成体だと捕まえるには大き過ぎるが、夏の子ジカなら小さく捕まえやすいと考えられる。また、オスはメスより体が大きく、食べ物の獲得競争に有利なためにシカを多く食べられると、グループは結果を基に考察している。
一方、秋になるとメスや若いクマは、ドングリが不作だと動物をやや多く食べていた。クマは秋にドングリをよく食べ、冬眠中のエネルギー源となる脂肪を蓄える。今回の調査法ではアリ以外の昆虫とシカを区別できないが、メスや若いクマは大人のオスとの競争を避けて昆虫を食べることで、ドングリの不作をカバーしていると考えられる。また、大人のオスがドングリの豊作年にも動物を一定量、食べていることも分かった。昆虫に加え、死んだシカの肉を食べていることも考えられる。
今回の研究で、同じ地域のクマでも性別や年齢、秋のドングリのでき具合により、食生活が異なることが明らかになった。一方、人里に出没して捕殺されるツキノワグマは、オスの割合が高いという。シカの肉と同様に栄養価の高い生ゴミや果樹が人里に放置され、オスのクマを引き寄せている恐れがある。これらの放置を防ぐなどの対策を進めれば、捕殺や人間の被害を減らすことにつながるかもしれない。人里に出没する原因や個体の特性の理解が重要となる。
東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院の長沼知子特任助教(動物生態学)は「ツキノワグマの生態は分かっていないことが多い。解明を続ければ、人との共生にも役立つのではないか」と述べている。
グループは東京農工大学、東京農業大学、森林総合研究所などで構成。成果は日本の哺乳類学専門誌「ママル・スタディー」の4月30日付に掲載され、東京農工大などが5月12日に公表した。
関連リンク
- 東京農工大学などプレスリリース「クマそれぞれのお食事メニュー 性別と年齢で変わる食生活」