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「揺れを伴わない」津波は衝撃波など複雑なメカニズムで発生 トンガ沖大噴火で支援と現象解明を

2022.01.21

内城喜貴 / サイエンスポータル編集部・共同通信社客員論説委員

 南太平洋・トンガ沖の海底火山が日本時間15日に大噴火した。その影響で日本の太平洋岸の潮位が最大1メートル以上も上昇し、全国8県で23万人近くが避難指示対象になった。この潮位変化は極めてまれな「揺れを伴わない津波」だった。津波や火山の研究者は、衝撃波による空気の振動である「空振」が原因の1つと解説しているが、ほかの現象も関係する複雑なメカニズムによる津波だったとみられる。

 気象庁や研究機関は海外の関係機関と連携して今回の現象の仕組みを可能な限り分析、解明してほしい。また住民に避難指示を出した自治体は、寒い夜中の避難の仕方などに課題はなかったかなどを点検・検証して今後の防災に備えることが求められる。大噴火から日が経つにつれて島国トンガの大きな被害も明らかになりつつある。日本政府を含めた各国の支援が始まったが、継続した国際支援が何より重要だ。

国連が公開した1月15日の爆発的噴火の瞬間を捉えた衛星写真(UN/NOAA/UNICEF提供)
国連が公開した1月15日の爆発的噴火の瞬間を捉えた衛星写真(UN/NOAA/UNICEF提供)

異例の現象で津波注意報・警報遅れる

 大噴火の発生は15日の午後1時ごろ。トンガの首都ヌクアロファの北約60キロあまりにある「フンガ・トンガーフンガ・ハアパイ火山」で発生した。気象庁は、噴火後しばらく、噴火地点から日本列島までの間の海域で大きな津波が観測されなかったことから午後7時過ぎに「被害の恐れはない」との情報を出した。しかし、同日夜にかけて太平洋沿岸部で潮位変化が観測されて一転、注意報や警報を発令した。

 避難対象には、2011年3月11日の東日本大震災で甚大な被害が出た東北地方の太平洋沿岸部も含まれていた。寒い中の避難に「あの日の記憶」がよみがえった人も多かったと伝えられている。注意報や警報が遅れて深夜になったことは残念だが、今回は海溝型の地震による津波とはメカニズムが異なる異例の現象であり予測は難しかった。

 気象庁は津波に関する注意報・警報を極力早く出すために、さまざまな地震を想定したシミュレーション結果をデータベース化している。そして遠方を含め世界で発生した地震記録や日本沿岸以外の観測データを速やかに加味し、日本沿岸への津波の到達時間や規模を予測している。しかし今回はこうした予想の前提が通用しない現象だった。

「空振」のほか、複雑メカニズムとの見方が有力

 今回の現象について東北大学災害科学国際研究所の今村文彦教授は、大噴火に伴う衝撃波が空気の振動である「空振」を起こし、これが海面を押さえ込むように波が発生し、日本に到達するまでに少しずつ増幅して潮位を引き上げたとみている。今村教授は「日本周辺で気圧上昇が観測され、その直後に潮位変化が確認できた」と説明した。このことは空気の衝撃波が空気を押して気圧を上げたと判断する根拠になるという。

 この空振による現象を指摘する研究者は多いが、衝撃波と海の波との「共振」が関係しているとの説や、大量のマグマが噴出した結果できた海底カルデラが激しく陥没して津波を引き起こした可能性など、ほかの要因を指摘する火山学者もいる。今回の現象は複雑なメカニズムによるとの見方が有力だ。

 今村教授によると、1883年に発生し、海底に直径8キロのカルデラができたインドネシアのクラカタウ噴火でも数十メートルの大きな潮位変化が大津波として周辺を襲った記録はあるが、遠方の火山噴火による日本周辺での潮位変化は極めて珍しいという。同教授は「今回(日本だけでなく)太平洋を越えてカリブ海まで影響して津波が発生している。極めてまれなことで、今後科学的知見を得ていかなければならない」と強調している。

 また、気象庁が遅れながらも現行の津波注意報や警報の仕組みを使ったことについては「今回の対応は(現行の予報の仕組みの中で)十分だったと思う。今後、自治体などの関係者と同じような状況がもし起きた場合何をすべきかの議論が必要だ」としている。

トンガは日本と同じ環太平洋火山帯に存在

 トンガは約170の島から成る島国で、日本や米大陸やニュージーランド、インドネシアなどと同じ環太平洋火山帯の一部に位置する。日本と同じ火山大国で、地球を覆うプレート(岩板)の一つが隣のプレートに沈み込む場所にある。プレートの上面が溶けてマグマができ、上昇することで火山が生まれる構造になっている。この火山帯では、過去万年単位でみると、今回のトンガの大噴火をはるかに上回り、生態系に大打撃を与えた超巨大噴火があった。

世界の津波観測点の分布図。観測点の多くは環太平洋火山帯か周辺にある(気象庁提供)
世界の津波観測点の分布図。観測点の多くは環太平洋火山帯か周辺にある(気象庁提供)

 日本の火山学の第一人者である神戸大学の巽好幸名誉教授によると、7300年前に鹿児島県沖の鬼界カルデラの超巨大噴火が起きている。噴煙は上空4万メートルに及び、東北南部まで降灰し、縄文文化を壊滅させたという。巽名誉教授は超巨大噴火が九州の阿蘇・姶良(あいら)カルデラで超巨大噴火が起きたと仮定した最悪シナリオでは、2時間以内に最大700万人が死亡。2日で本州のライフラインが停止して救援活動もほぼ不可能になるとしている。そしてこの超巨大噴火は「当分起きないとは言い切れない」と指摘している。

 今回のフンガ・トンガーフンガ・ハアパイ火山の大噴火は、0から8まである噴火規模のうち5程度とみられている。国内外の多くの研究者は現時点で、6程度とされた1991年のフィリピン・ピナツボ山の大噴火よりは規模は小さいものの、それに近い規模の歴史的大噴火とみている。鬼界カルデラの超巨大噴火は7だったとされている。

 ピナツボ山噴火は噴出物が成層圏に達して太陽光を遮り、日本の冷夏など広範囲に異常気象をもたらしたことで知られる。トンガの火山噴火でも気象変化をもたらす二酸化硫黄が噴出していることが米海洋大気局(NOAA)の衛星観測などで明らかになっている。今回噴火した火山は南半球にあることから日本への影響は少ないのではとの指摘もあるが、予断は禁物だ。詳しい分析が待たれる。

爆発的噴火の瞬間に火山灰や二酸化硫黄を示す衛星「GOES West」による画像。衛星の赤外線チャネルにより検出した(NOAA提供)
爆発的噴火の瞬間に火山灰や二酸化硫黄を示す衛星「GOES West」による画像。衛星の赤外線チャネルにより検出した(NOAA提供)

自治体は避難行動など点検を

 内閣府の中央防災会議の作業部会は昨年12月21日に日本海溝・千島海溝沿いで巨大地震が起きた際の被害想定を公表。この中で冬の深夜の発生が最も死者数が多くなると予測した。長時間寒冷環境にさらされると低体温症になり、死亡リスクが高まるという。

 今回は海溝型地震による津波ではなかった。しかし、夜中になって津波注意報や警報が出された。寒い中、突然身支度をして避難所へ向かったお年寄りも多く、高台を目指す車が渋滞したケースもあったようだ。沿岸部が入り組んでいる岩手県では16日になって日が上がってからもしばらく警報は解除されなかった。各自治体は気象庁の発令を受けた後、住民に速やかに周知徹底できたか、避難行動は的確に行われたか、避難所の寒さ対策は十分だったか、などを点検・検証し、課題があれば速やかに改善する必要がある。

 共同通信によると、トンガの被害の実態はインターネットや国際電話などの通信網が遮断されたこともあり、数日把握できない状態が続いた。トンガ政府は18日になって、最大15メートルの津波が襲い、判明しただけで3人が死亡、多数の負傷者が出て、今後被害は拡大する可能性があることを明らかにした。

 国連や国連児童基金(UNICEF)、世界保健機関(WHO)などの国際機関のほか、国際支援団体は、情報や支援内容を公表しながら国際緊急援助活動を20日までに開始した。国連衛星センター(UNOSAT)は大噴火が起きる前と後の火山島の衛星写真を公表。陸地が大部分消失していることを示して今回の自然災害の大きさを伝えている。

国連が公開した国連衛星センター(UNOSAT)撮影の噴火前(上・昨年12月)と噴火後(下・1月18日)の火山島の衛星写真。陸地が大部分消失していることが分かる。(国連訓練調査研究所〈UNITAR〉のサイトから/ UNITAR提供)
国連が公開した国連衛星センター(UNOSAT)撮影の噴火前(上・昨年12月)と噴火後(下・1月18日)の火山島の衛星写真。陸地が大部分消失していることが分かる。(国連訓練調査研究所〈UNITAR〉のサイトから/ UNITAR提供)

 オーストラリアやニュージーランド政府が20日に支援物資をトンガに届けるなど援助活動を本格化した。日本政府も同日、航空自衛隊の輸送機で飲料水などを、海上自衛隊の輸送艦で復興用の大型機材などをそれぞれ現地に急送することを決定。輸送機は、オーストラリア経由で22日にも現地に到着する予定。日本は東日本大震災の時に多くの諸外国から多大の支援を受けた。日本が率先し、国際社会のトンガ政府への手厚い支援が待たれる。

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