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小笠原の海底火山噴火、大量の軽石が沖縄・奄美に漂着し被害 黒潮に乗り関東到達か

2021.11.05

内城喜貴 / サイエンスポータル編集部

 東京都の中心部から南方に約1000キロ以上離れた小笠原諸島。その付近の海底にある火山「福徳岡ノ場」が8月に噴火した。噴火で生まれた大量の軽石が千数百キロ離れた沖縄・奄美地方に漂着して深刻な被害が出ている。海洋研究開発機構(JAMSTEC)はスーパーコンピューターを使ったシミュレーションを実施し、軽石は今後黒潮に乗って九州、四国から関東地方の沖合に到達する可能性があると予測した。政府や自治体は軽石漂流が広く社会経済活動に及ぶことを懸念している。

噴煙は高さ1万6000メートルにも及んだ

 「福徳岡ノ場」は小笠原諸島・硫黄島の南約50キロの海底火山だ。気象庁は8月13日に噴火したと発表。海上保安庁(海保)も同日午後、周辺に噴煙が上がっているのを航空機で確認し、周辺海域を航行する船舶に注意を呼び掛けた。噴火は2010年2月以来11年ぶりだった。

 気象庁によると、気象衛星ひまわりの観測で同日午前6時すぎに噴煙を確認した。噴煙の高さは約1万6000メートルにも及んだ。海上保安庁はその3日後に長径1キロ前後の馬てい形をした新島を確認した。この一帯では過去3回、新島の形成が確認されているが、いずれもその後海没したという。

海底噴火した福徳岡ノ場の8月13日14時52分の上空の状況。海上保安庁が実施した観測で大規模な噴煙が確認された(福徳岡ノ場の北方約90キロ、高度6000メートルから撮影)(海上保安庁提供)

 産業技術総合研究所(産総研)地質調査総合センターによると、噴火マグニチュードは推定4.5~5.1。明治時代以降に発生した日本列島での噴火としては最大級で、1914年の桜島火山大正噴火に次ぐ規模だった。新島表面の温度は23~29度程度で溶岩の流失は確認できなかった。しかし火口近くに厚く堆積した噴出物により新島が形成された。

 気象庁は噴火の直後から、周辺の海域で弾道を描いて飛散する大きな噴石や噴煙に対する警戒を呼び掛けていた。一方、海保は噴火に伴って噴出した軽石などの浮遊物が、海面で蛇行しながら西北西方向に流されていることを観測、確認した。

気象衛星「ひまわり」の8月13日の観測画像。福徳岡ノ場の噴火による噴煙が西に流れている様子が分かる(気象庁提供)
気象庁の海洋気象観測船「啓風丸」が8月22日に福徳岡ノ場に比較的近い海域で撮影した画像。(a)は軽石などの浮遊物が海面に漂う様子。(b)は浮遊物を採集する様子(気象庁提供)
8月26日午後、海上保安庁が福徳岡ノ場上空を観測、撮影した様子。新たな噴火はなかったものの西側と東側に新島が現われて海面上に灰色の物質が間欠的に湧出している様子を確認した(画像上の説明は気象庁)(気象庁/海上保安庁提供)

軽石は10月中旬に漂着、最大25センチも

 気象庁によると、福徳岡ノ場は1986年に噴火した時も、琉球列島から本州にかけ広く軽石が漂着したとの記録がある。漂流軽石が沿岸部に漂着する事態は8月の時点で既に心配されていたが、10月中旬になると鹿児島県・奄美群島や沖縄県の島々に大量の軽石が漂着しているとの報告が相次いだ。

 現地からの報道によると、奄美群島の喜界島では10月10日に漂着が見つかり、その範囲は島の北東部から全島に広がった。海保などは漁船の吸水口に詰まるとエンジンなどが故障する恐れがあると注意を呼びかけている。漁船やフェリーが出られない事態がその後も続いているという。

 また、養殖用生けすで魚が軽石をえさと間違って摂取して大量死する被害やリゾートホテルのプライベートビーチの白い砂浜に漂着した被害なども報じられている。

 産総研地質調査総合センターは南西諸島に研究者を派遣し、軽石漂流の実態調査を実施。10月18、19日には沖縄本島の本部(もとぶ)半島や北部の国頭村(くにがみそん)で漂着軽石を詳しく調べた。その結果、軽石のほとんどは長径3ミリ~3センチだったが、10センチ以上あるものも含まれ、最大25センチあったという。

軽石が漂着した沖縄県今帰仁村の海岸で調査する産総研の研究者(10月18日)(産業技術総合研究所提供)
沖縄県国頭村の伊部海岸に打ち上げられた軽石が堆積した様子(10月19日)(産業技術総合研究所提供)
産総研の研究員により網で引き上げられた軽石(産業技術総合研究所提供)

 同センターは、海面を覆う大量の軽石が漂着すると、浅層の海水を冷却水に利用している発電所や製鉄所、船舶のエンジンなどに障害を起こす可能性があるとしている。また、一度沿岸に漂着した軽石は潮位の変化や高波により再び沖合に出たり、再漂着したりすることがあり、被害の拡大や長期化が予想されると注意を呼びかけている。

関東沿岸への漂着予測は11月下旬

 JAMSTECはスーパーコンピューター(スパコン)を使ったシミュレーションの結果、福徳岡ノ場の噴火で生じた軽石は11月末ごろに千葉県や神奈川県などの関東地方の沖合に到達する可能性があるとの予測を10月28日に発表した。

 JAMSTECの研究チームは軽石に見立てた1万個の粒子を噴火地点周辺の半径100キロに配置し、太平洋を流れる黒潮など海流の動きを再現するモデルを使って8月中旬から11月下旬までの軽石の動きを解析した。すると、軽石は「黒潮反流」という西向きの海流に乗って10月上旬に沖縄県に到着するとの予測になった。

 実際その通りになっているが、その後軽石は黒潮に乗って北上。九州から四国・高知県沖合まで進んだ後、11月中旬には黒潮が南に曲がる「黒潮大蛇行」の影響を受けて紀伊半島の南方沖に離れるが、下旬には再び沿岸部に近づいて東海・関東地方の沖合に到達する可能性があるとの結果が出たという。

 ただし、黒潮の詳細な流れは風の方向や強さに影響されるため、実際にどの程度の軽石がいつ沖合に到達し、漂着するかなど詳しいことは不明だ。漂流が長く続くことにより軽石が散乱して漂着しても沖縄のように大量にならない可能性もあるという。

図の上からスパコンによる軽石漂流の「10月7日」「11月6日」「11月26日」の予測(JAMSTEC提供)

自治体や政府が対策

 沖縄県は10月27日に関係部署を集めた対策チームの初会合を開き、軽石の除去、回収の具体的方法を協議した。その後も軽石が海岸に漂着した本島北部の国頭村の漁港など各地で撤去作業が行われた。被害を受けた港内の海面はセメントを流し込んだように一面が灰色の軽石で覆われた状態で、これまでの撤去作業は陸上からショベルカーで軽石をすくい上げる方法が中心だが、海面の汚染物の拡大を防ぐフェンスを船で引いて回収する作業も行われるという。鹿児島県も対策会議を開くなど、対応に追われた。

 政府も10月28、29日に国土交通省や環境省など関係省庁による対策会議を開催。被害が広がる可能性があるとして、軽石の回収や船舶の安全確保、漁業被害への支援などの対策をとることを確認した。松野博一官房長官は29日の記者会見で「(被害が出ている)地元としっかり連携し、要望を聞きながら迅速かつ万全の対応を(関係省庁に)指示した」と強調している。

 10月27日に開かれた原子力規制委員会の定例会合では、大量の軽石が原発に漂着した場合、原子炉の冷却に使う海水の取水設備に影響が出る恐れがあり、注意喚起の必要があるとの見解が委員の一人から出されたという。

 漂流軽石について、同規制委は2019年11月に「軽石が漂着するまでの時間的余裕の間に、油流出防止のためのオイルフェンスや放射性物質の拡散防止のためのシルトフェンスを敷設することで取水口への漂流軽石の到達を防止することが可能」との見解を出したことがある。規制委事務局は今年10月25日付で各地の原子力規制事務所に電力会社に対策が既にとられていることを確認するよう指示した。

10月31日に海上保安庁第十一管区海上保安本部の航空機が沖縄本島北西部上空で撮影した軽石の漂流(海上保安庁提供)

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