日本学術会議が6日、提言「科学者コミュニティにおける女性の参画を拡大する方策」を公表した。提言の中に同性婚の容認や性的少数者に対する差別的待遇の禁止を盛り込んでいるのが目を引く。
政府は、12月に「第4次男女共同参画基本計画」を策定する予定。提言は計画に科学者コミュニティの要望を反映させることを狙い、同会議の科学者委員会男女共同参画分科会(委員長・井野瀬久美惠甲南大学文学部教授)がまとめた。
提言はまず、研究者の世界においても男女共同参画が進んでいない現状を紹介している。「研究者に占める女性割合は 14.6%と、英国の 37.8%、米国の 33.6%、ドイツの 26.8%、韓国の18.2%などと比べて一段と低く、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で最低レベルにある」。こうした2014年の「男女共同参画白書」の記述を引用した上で、科学者コミュニティ自体の努力不足も認めている。「役員等の選考におけるポジティブ・アクションなど、何らかの男女共同参画施策を行っている学協会は 2 割前後と少ない。特に文系学協会では男女共同参画をうたった、あるいはそれと関連する組織的努力はほとんどなされていない」と。
ポジティブ・アクション(暫定的特別措置・積極的改善措置)というのは、具体的な数値目標を設定して男女共同参画を推し進める行動を指す。2011年に閣議決定された「第4期科学技術基本計画」では、「自然科学系25%(早期)、さらに30%を目指す。特に理学系20%、工学系15%、農学系 30%の早期達成および医学・歯学・薬学系合わせて30%の達成を目指す」という女性研究者の採用目標値が盛り込まれた。
しかし、現状と目標の開きは大きい。女性研究者比率の目標値を設定するのにとどまらず、「取り組み成果を総合的に検証するための専門機関の設置」を日本学術会議が提言したのもうなずける。「大学・研究機関等で実施されているポジティブ・アクションの成果を共有し検証するために、一元的に情報を集め、調査・分析・検証・評価の結果を公表し、それに基づいて是正勧告する」権限を持つ機関だ。
さらに日本学術会議の積極姿勢、危機意識が「多様なライフスタイルの尊重と多様な選択肢の保障」という提言からうかがうことができる。「研究生活の途中で氏(姓)の変更を強制されることは研究継続上きわめて不都合であり、通称を使用したとしても、パスポート申請手続き等において種々の不利益を被る」として、「1996 年民法改正要綱に示された法改正を速やかに行い、選択別氏(姓)を導入する」ことを求めた。
性的少数者に対するビザの給付や大学宿舎貸与に関する差別的待遇や条件の改善を求めた提言も、事実婚の急増、同性婚や同性パートナーシップの容認といった家族の多様化という世界の潮流に合わせたものだ。日本の対応が遅れている結果、研究の国際交流に多大な支障・摩擦が生じている、とも指摘している。
2014年の国連人権理事会による「性的指向と性自認についての決議」や、同性婚を禁止する州法(14 州)を違憲と判断した今年6月の米連邦最高裁の判決など、海外では性的少数者の権利を保障する動きが続いている。しかし、日本では同性カップルを「結婚に相当する関係」と認める全国初の区条例を今年3月、渋谷区議会が可決したのが、ニュースになったくらいだ。
日本学術会議の提言は、男女共同参画の推進、性的少数者の権利保障にどのような影響を及ぼすだろうか。