レビュー

編集だよりー 2013年3月18日編集だより

2013.03.18

小岩井忠道

 「科学者も研究だけでなく社会のありようにもっと関わりを!」というメッセージが多くの人に伝わっただろうか。

 当サイエンスポータルに関わるのも今月いっぱいとなったので、「このテーマで書いていただきたい」と急きょお願いした寄稿をオピニオン欄に順次、掲載している。有本建男氏に「今こそ科学と政治の協働を - 2つの文化の架橋」を書いていただいたのに続き、坂東昌子・元日本物理学会会長の寄稿「3・11後の科学に思う」を14日に掲載した。坂東先生にはこれまでにも何度か寄稿していただいたが、一度だけ、逆に先生からインタビューされる光栄に浴したことがある。この映像は、科学技術振興機構企画・製作のインターネット科学ニュース番組「サイエンス・ニュース・ネットワーク」の一つとして公開された(前編「科学情報収集の秘密」、後編「Web時代の科学情報発信」)。

 「日本の科学報道のこれまでと、現在の問題点」「科学情報の発信のあるべき姿や、科学情報発信における新聞とWebの違い」

 たいそうな字幕が入った3年以上前のこの番組を見直してみると、相当なことを言っている。「新聞社や通信社の科学記者が伝えたがらないことを、あえて紹介しようとしている」などと。

 「昔は、今のように情報提供側からきちんとした資料が出ないのが当たり前。一本の記事を書くのに、とにかく相当な時間と労力を要した。今は、サイエンスポータルのプレスリリース欄から官公庁、主な研究機関、大学の詳しいニュースリリースを一覧で見ることが可能。ここで探した資料からだけでもニュース記事は書ける」

 「さらに日本学術会議をはじめ、多くの機関がシンポジウムを頻繁に開くようになった。例えば、基調講演の概要を紹介することで、個々の研究成果を伝えるよりも科学の大きな流れ(問題点も)が分かる。大体がその道の指導的な人たちが話すわけだから」

 「多くの情報が公表されるようになったのだから、今、より必要とされているのは大事なポイントが何かを伝えること。さらに詳しく知りたい人は、プレスリリースを見てもらえばいい」

 そんなことを偉そうに話していた。そういえば、坂東先生との出会いも、日本工学会主催の講演会「博士後期課程修了後のキャリアパス多様化に向けた学協会の役割」で先生が日本物理学会の取り組みを講演されたのを、たまたま取材したのがきっかけだった(2008年6月9日レビュー「博士はあまっていない?」、2008年6月4日オピニオン・坂東昌子氏・日本物理学会 キャリア支援センター長「20%の時間は冒険に -キャリアの新たな展開に向けて」、2008年4月21日ニュース「博士課程の立て直し目指し日本工学会が講演会」参照)

 「多くの科学記者は、研究開発成果など記事にしやすいものしか記事にしない。基調講演などはほとんど記事にならないし、そもそもシンポジウムなどで記者らしい人をあまり見かけない」

 といったことを話しているうち「研究論文と同じね」という坂東先生の相づちが入った。

 「一度書いたことと全く同じことは2度と書かない、という規範が新聞、通信社の世界にはある」と話したことに対してだ。しかし、これは聞き流した。お互いの仕事をきちんと評価し合う学界のピュアレビューに相当する習慣は、残念ながら記者の世界にはない、といえるからだ。

 その代り、以下のような話を続けた。

 全ての読者がある新聞の全ての記事を必ず毎日、読むということはありえない。そんな現実を考えれば、大事な事柄こそむしろ何度も繰り返し書いた方が、読み落とされる心配は少なくなる。この点に関しては、新聞よりウェブの方がよほど優れた媒体といえるのではないか。重要と思えることは繰り返し伝えることができるし、過去の記事のURLを末尾に付記しておけば、読者はすぐその関連記事も簡単に読めるから…。

 このインタビューから、3年数カ月たつ。しかしというかやはり、当時、見落としていたことがある、と最近になって気づく。「いい記事さえ載せておけば、ウェブの方がきちんと読んでもらえる。後から検索で簡単に記事を見つけてもらえるから」。なんて考えていたのは、ウェブの長所を過大に捉えた早とちりだった、と。ウェブ時代の情報の伝わり方も、結局は情報が新鮮かどうかに大きく左右される、ということだ。

 当サイエンスポータルに関して言えば、まずツイッターへの対応が、1昨年11月からと大きく遅れたのが痛い。もっと悔やまれるのは、その時、長年ニュースとレビューだけだった「RSS」対応(新しい記事を掲載するたびに多くの人に通知する方策)を、他の記事にも拡大しなかったことだ。「インタビュー」「オピニオン」「ハイライト」など、さまざまな人たちの活動や主張を紹介した記事の掲載をビューワーに通知することを始めたのは、なんと昨年12月からだった。こちらの方が、新聞があまり伝えたがらない情報を盛り込んだサイエンスポータルならではの記事、と言えるのに(全てがそうではないにしても)。

 ともかく、それまでツイート「0」という記事もしばしばあったこれらの読み物記事のツイート数が軒並み跳ね上がったことから、RSSの効果は歴然としている。逆に、まれにRSSを忘れたりすると、すぐ分かる。ツイートがいつまでたってもゼロのままだったりするからだ。

 まあ、「遅かりし由良の助」といった感もあるが、最後の最後にいい勉強をさせてもらったということだろうか。

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