レビュー

編集だよりー 2012年10月21日編集だより

2012.10.21

小岩井忠道

 セルバンテス文化センター東京で開かれた東京国際女性映画祭で「そしてAKIKOは…」(羽田澄子監督)を観た。

 編集者は全く知らなかったのだが、有名なダンサー、アキコ・カンダが昨年秋に肺がんで亡くなる12日前まで自ら主宰するアキコ・カンダダンスカンパニーで踊っていた姿を含め、25年間にわたるダンス一筋の人生を追ったドキュメンタリー映画だ。

 肺がんの治療で入院していた病院からタクシーで劇場前に付き、楽屋に向かう姿は、よろよろしており、歩くのがやっとという感じだ。抗がん剤の治療で髪の毛はほとんど抜け落ちており、足は大腿(だいたい)部まで含め棒のようにやせ細っている。ところがその姿、体力で1日に2度も踊ったのだ。最初はいすに座って上半身だけの動きだけだったが、途中から立ち上がっていすに手をかけながらも、椅子の周りを回り始めた時は「うそだろう」と胸の中で叫んでしまった。さらに2回目は、全身を使っての動きである。この時、75歳、健康体でも現役を続けるのが難しい年齢だろう。

 アキコの名前も知らないのに妙な話だが、芸術家で一番、尊敬できるのは舞踏家だとずっと思っている。多分、人間としての表現能力をこれほど目いっぱい発揮する芸術はほかにないと信じるからだろう。オペラ歌手も全身を使った演技に加えて、舞踏にはない声という人間ならではの表現が加わるから十分、尊敬している。しかし、それでも舞踏にはかなわないという気がしてならない。そもそもオペラ歌手にとって体の動きは(体格も)決定的な優劣の指標にならないだろうから、舞踏ほど全身を目いっぱい使った芸術とは思えない。

 アキコが20歳そこそこで渡米し、有名な米国の舞踏家、マーサ・グレアムの舞踏学校に入学した時、何が衝撃だったかを語る場面があった。「腕や足がそれぞれ体の中心から伸びていると思いなさい」という教えだったという。これは素人でもなんとなく分かるような気がする。

 球技も同じ見方から、道具を使った球技より、自分の体だけしか使わない球技の方が上等だとずっと思っている。バスケットボール、サッカー、ラグビーなどは走力、跳力をはじめ全身の筋肉を目いっぱい使った動きをしないとどうにもならないし、見ている方も誰が優れた選手かすぐに見分けられるのではないだろうか。ごまかしがきかないし、調子が悪かったといった言い訳も通じない。

 東京国際女性映画祭は今年で25回目を迎えるが、これが最後となる。発足当初は、メセナを重視する日本企業も多く、企業からの寄付集めにも困らなかったそうだが、何年か前から、運営も苦しくなったとのこと。毎年、女性監督たちによる数々の秀作に触れることができた編集者にとっては、実に残念としか言いようがない。

 最後に上映された「そしてAKIKOは…」は、いろいろな意味で東京国際女性映画祭の最後を飾るにふさわしい作品だったということだろうか。

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