レビュー

編集だよりー 2010年12月4日編集だより

2010.12.04

小岩井忠道

 

 当サイエンスポータルの支援者でもある大学発ベンチャー支援サイト「デジタルニューディール(DND)」代表、出口俊一さんのメールマガジン(11月24日付)を拝読し、わがいい加減な行動をあらためて反省した。

 「読書感想文を強いるのは、1枚の切手に日本地図を押し込むようなモノとして、児童どころか中高生にも不向きである」というある日本語の大御所の言を引いて、「本をたくさん読むことが大切で、読書感想文を書くことが重要ではない。その本が果たして面白いかどうか、読んでみなくちゃわからない。つまらない本の感想なんか書きたくないし、書きようがない」と書かれていた。

 「本をたくさん読むことが大切」という個所は読み飛ばして、大いに納得する。そもそも読書感想文というのを書いた記憶がないからだ。もっとも全く書いたことがないというのも考えにくい。小中学生のころ嫌々書いただけだからさっぱり覚えていないということだろう。読書感想文が嫌いだった上に最近は本そのものをさっぱり読まない。しかし新聞の書評欄はよく読む。こんな行動も要するに分厚い本を読み通す根気がないから、と頭をたれる。

 4日、「『未来』という人間特有の意識は何をもたらすのか? というタイトルの脳科学シンポジウムを傍聴した。小泉英明・日立製作所役員待遇フェローが中心になり、人間に特有な「未来を考えられる能力」に焦点を当てたユニークなシンポジウムだ。

 講演者、パネリストの中に1人、脳科学研究とは直接関係ない方がいた。佐々木博康氏だ。一言で表現できないので氏が所長を務める日本マイム研究所のホームページからプロフィールを引き写す。

 「マイムを及川広信氏に、モダンダンスを大野一雄氏に学ぶ。その間、土方巽の暗黒舞踏派のメンバーとして舞台公演に参加。1965年にパリにてマイム界の巨匠エティアンヌ・ドゥクルーにコーポレルマイムを、ベラ・レーヌにリアリズムマイムを学ぶ。帰国後日本マイム研究所の所長となり、マイムの普及に努める。毎年4回〜5回の国内公演、アトリエ公演とヨーロッパを中心に海外公演を行っている」

 「口がうまい人は、体での表現はうまくない。口べたな人は体で表現するのはうまい」。講演の冒頭に話されたことになるほどと感じ入る。そういえば編集者の郷里では、口がうまい人というのはあまり尊敬されていないように思える。結婚披露宴などであいさつを嫌がらない人として重宝がられるものの、表面はともかく真剣に聴いているのは新郎新婦の親たちくらい、というのが実態ではないだろうか。来賓あいさつが終わるやいなやしゃちほこ張る空気が一気に乱れ、後はあちこちで差しつ差されつの饗宴に…。そんな光景を何度見てきたことか。おかげで編集者などは、いまだにまじめな口調でもっともらしいあいさつをするのが不得手だし、聴くのも苦手だ。

 パントマイムとマイムは違うということを、佐々木氏の話で初めて知る。パントマイムの典型はピエロで、最も重要なのは顔の表情。次いで腕の動き、手の動き、上半身の動きの順に重要度が下がってくる。これに対し、20世紀になって登場したマイムが最も重視するのは胸の動きで、次いで腹、腕となり、表情はあまり使わないという。内面、心の奥を表すのに顔の表情はそれほど適していないということだ。

 「甲子園の高校野球で優勝が決まった瞬間、あるいは突然、ものすごい恐怖感に襲われた時、言葉など出てくるだろうか」。佐々木氏の話に、もう一つ腑(ふ)に落ちたことがある。この年齢になるまで、「徳川慶喜」(1998年放映)を例外としてNHKの大河ドラマというのをほとんど見たことがないことについてだ。

 それほどの役でもない武士たちが、しばしばものすごい形相で怒鳴る。こんな場面があまりに多すぎるのに閉口したからだが、今の大河ドラマは内面、心の奥を大げさな顔の表情やでかい声だけで表現しないリアルな演出になっているのだろうか。

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