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原発事故の原因解明と刑事責任追及との関係

2012.08.02

 東京電力福島第一原発事故に関し福島県民などから出ていた東電幹部、政府関係者たちに対する告訴・告発を受理する、と福島、東京、金沢各地検が1日、発表した。

 2日の新聞各紙朝刊によると、検察側は報道陣に対し異例の説明会を開き、一方「福島原発告訴団」も記者会見を開き、東電や政府関係者に対する検察の捜査が始まることに期待を表した。告訴・告発は、津波・地震対策を怠った結果、住民を被ばくさせたり、避難を強いて死亡させた業務上過失致死傷や原子炉等規制法違反の疑いがあるとしている。

 告訴・告発状の提出は昨年6月11日。検察側はこれまで受理を見合わせていたが、6月23日に政府の「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」(政府事故調)の最終報告が出て、民間、東電、国会、政府の事故調査報告が出そろったことで、捜査が可能になった、としている。

 福島原発告訴団のホームページによると、告訴・告発されたのは勝俣恒久会長、西澤俊夫社長、清水正孝前社長、吉田昌郎前福島第一原発所長ら当時の東電幹部や元幹部15人と、班目春樹原子力安全委員長、鈴木篤之前同委員長、寺坂信昭原子力安全・保安院長、広瀬研吉元同院長、近藤駿介原子力委員長、合田隆史・前文部科学省科学技術政策局長ら政府関係者15人、さらに山下俊一福島県立医科大学副学長ら福島県放射線健康リスク管理アドバイザー3人の研究者が含まれている(肩書きはいずれも2011年6月11日時点)。

 各紙の記事は、捜査の難しさは指摘しているが、原発事故で検察が捜査を始めること自体の問題点についてはあまり踏み込んでいないように見える。航空機事故や鉄道事故で刑事責任を追及する警察が真っ先に事故原因を調べることについては、前から議論があるにもかかわらずだ。政府事故調の畑村洋太郎委員長は次のように言っている。

 「警察が責任を追及となると業務上過失傷害、業務上過失致死といった刑法の条項が適用され、予見可能性があったか、自覚していたかといった話になる。そうではなく、きちんと原因、背景なりを取り上げて、同じ事故あるいは同じシナリオの事故が起きないようにすることの方がもっと大事だ」(2012年7月26日ハイライト「人災より組織事故という考え方が大事」

 同時に氏は「これだけの事故が起きているのにだれも責任をとらないというのはおかしい、という声があるのは当然だと思う」とも語っており、福島県民などが刑事責任を求めて告訴・告発の動きに出たことまで否定する考えを持っているようには見えない。

 今回の報道を見る限り、検察側は、政府や国会の事故調査委員会の調査活動が終了したのを見計らって捜査開始を決めたようだが、捜査に着手する時期については警察・検察側の考え方次第ということだろう。

 原発事故の刑事責任追及と政府や国会の事故調査との関係、特に警察・検察の捜査開始時期についてどのように考えるべきか。こちらについてももっと関心を持ってよいように思うが、どうだろう。

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