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東電事故調・最終報告書の要旨〈その1〉

2012.07.05

東京電力福島第一原子力発電所事故について、東京電力社内の「福島原子力事故調査委員会」(委員長、山崎雅男・代表取締役副社長)が6月20日、「福島原子力事故調査報告書」を公表した。要旨は次の通り。

第1章 本報告書の目的

これまでに明らかとなった事実や解析結果等に基づき原因を究明し、原子力発電所の安全性向上に寄与するため、必要な対策を提案することを目的としている。 現に生起した事象を設備や運用の改善につなげていくことが重要であり、炉心損傷の未然防止に関する課題の検討を中心としている。事故原因や事故対応に関す ることであって、社会的な関心事となっている事項についても可能な限り応えることができるよう考慮した。

第2章 福島原子力事故の概要

福島第一・第二原発の概要、事故の概要、事故調査の内容と本報告書の構成

第3章 東北地方太平洋沖地震の概況と地震・津波への備え

地震及び津波の規模

発電所を襲った地震の大きさ(福島第一・第二原子力発電所での観測結果)
福島第一原子力発電所の原子炉建屋基礎版上(最地下階)の観測値は、耐震安全性評価の基準である基準地震動Ss1に対する最大加速度 を一部超えたが、ほとんどが下回った(観測された最大加速度:2号機原子炉建屋地下1階550ガル)。地震観測記録の応答スペクトルについては、一部周期 帯において基準地震動Ssによる応答スペクトルを上回ったが、概ね同程度であることが確認された。今回の地震動は設備の耐震安全性評価の想定と概ね同程度 のものであった。

発電所を襲った津波の大きさ(津波波形の特徴、福島第一・第二原子力発電所での津波調査結果、福島第一・第二原子力発電所の津波高さの差異の理由)
2002年に社団法人(現在は公益社団法人)土木学会から刊行された「原子力発電所の津波評価技術」(「津波評価技術」)に基づく評 価結果(O.P.〈工事用基準面〉+ 5.4-5.7m)を踏まえた対策を講じ、その後、2009年に最新の海底地形データ等を用いた再評価結果(O.P.+ 5.4-6.1m)を踏まえた再度の対策を講じていたが、今回の津波はそれを大幅に超えるものであった。

地震への備え(耐震安全性評価)(1)耐震安全性評価の経緯
福島第一原子力発電所の原子炉設置は、1966年(1号機)から1972年(6号機)の間で許可を得ている。当時の耐震設計では重要 な建物、構築物、機器配管系などの施設については、原子炉建屋基礎版において約180ガルにて設計し、格納容器などの安全対策上重要な施設については 180ガルの1.5倍(270ガル)の地震動にて機能が確保されることを確認している。
1978年には「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(旧耐震指針)が策定された。既に建設済みのプラントについても、この旧耐震指針に沿って過去の地震、地質調査を基に基準地震動S1、S2を策定し、耐震安全性が確保されていることを確認している。
2006年9月に「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」が改訂された(新耐震指針)。原子力安全・保安院から新耐震指針に照らした耐震安全性評価の実施(「耐震バックチェック」)と、その実施計画書の提出が指示された。
この耐震バックチェックにおいて各種調査を実施し、活断層の長さなどを評価するとともに、プレート間地震及び海洋プレート内地震について、不確かさを考慮した地震動評価により基準地震動Ssを最大加速度600ガルに策定した。
2007年7月16日に「新潟県中越沖地震」が発生し、柏崎刈羽原子力発電所で従来の想定を超える地震動が観測された。同20日に経 済産業省から、「新潟県中越沖地震」から得られる知見を耐震安全性の評価に適切に反映し、耐震安全性評価の実施計画の見直し結果の報告などを求める指示 「新潟県中越沖地震を踏まえた対応について」が出された。
当社としても追加の地質調査を行うとともに、福島をはじめとする国民の皆さまに原子力発電所の安全性を早期に示す観点から、代表プラ ント(福島第一5号機、福島第二4号機)を選定し、当初予定されていなかった「中間報告」を2008年3月に行うよう計画を見直し、実施計画書を2007 年8月20日に原子力安全・保安院に提出した。
「新潟県中越沖地震」の解明が進む中で、他の原子力発電所でも確認すべき知見が判明し、それらを取りまとめて原子力安全・保安院から 2007年12月27日に「新潟県中越沖地震を踏まえた原子力発電所等の耐震安全性評価に反映すべき事項(中間取りまとめ)について」が発出され、さらに 翌2008年9月4日に「新潟県中越沖地震を踏まえた原子力発電所等の耐震安全性評価に反映すべき事項について」として指示が出された。
新たな指示に対応するためには、調査などに時間を要することから、2008年12月8日に耐震バックチェックの実施計画を見直すこと とした。耐震バックチェックが遅れることから、当初代表プラントだけで実施することとしていた「中間報告」について、他のプラントについても行うこととし た。
耐震バックチェックについては、2回の原子力安全・保安院からの指示文書により地質調査、解析見直しなどが必要となった。地質調査に あたっては、住民の方々への説明や理解の期間、調査に必要な船舶や機器などの手配調整が必要となる。地下探査や海上音波探査ともに特殊な機材を使用する調 査であり、実施可能な機関が限定される。解析などにおいては、モデル作成や対策案検討のための現場調査や解析作業に精通した技術者が必要となるが、すべて の電気事業者が原子力安全・保安院の指示で一斉に動き出したために、対応できる技術者が不足した。その結果、「新潟県中越沖地震」による被害の対策の教訓 や耐震バックチェックの中間報告への対応に時間を要し、最終報告書の提出時期の見通しも得られなかった。
福島第一5号機と福島第二4号機を代表プラントとした中間報告書は2008年3月に提出した。これに対して、2009年7月15日に 原子力安全・保安院での審議を終了し、同年7月21日に評価は妥当との見解が示された。同年11月19日には、原子力安全委員会が評価の妥当性を確認し、 その旨が公表されている。
最終報告書の提出時期については、社内的には工程検討を進め、2010年12月時点で、2011年度から2015年度前後にかけて提出する計画原案を作成したが、定量的に工程をつめきれず、未だ公表するようなレベルには至っていない。
(2)耐震安全性評価(中間報告書)

中間報告では、「新潟県中越沖地震」の知見を生かした調査に基づき、基準地震動Ssを策定するとともに、原子炉建屋や安全上重要な機能を有する耐震Sクラスの主要な設備などについて耐震バックチェックを実施した。
作成した中間報告書は、2008年3月に代表プラントの福島第一5号機と福島第二4号機を、2009年4月に福島第二1-3号機を、同年6月に福島第一1-4、6号機を、それぞれ国へ提出した。
基礎地盤の安定性及び地震随伴事象(津波に対する安全性、周辺斜面の安定性)については、最終報告書において結果を報告することとしており、その旨は代表プラントの中間報告時の当社プレス発表時においても公表している。
中間報告書については、原子炉建屋の鉛直方向解析に使用した解析用数値に一部誤りがあったことから、全プラントのデータを再確認・訂正し、耐震安全性に問題がないことを確認した上で2010年4月に報告書を再提出した。

津波への備え(1)津波高さの評価
当初、津波に関する明確な基準はなく、既知の津波痕跡を基に設計を進めていた。具体的には、小名浜港で観測された既往最大の潮位として1960年の「チリ地震津波」による潮位を設計条件として定めた。(O.P.+3.122m)
1970年に「軽水炉についての安全設計に関する審査指針について」(安全設計審査指針)が策定され、考慮すべき自然条件として津波 が挙げられ、過去の記録を参照して予測される自然条件のうち最も過酷と思われる自然力に耐えることが求められている。同指針を踏まえた国の審査において、 「チリ地震津波」による潮位を設計条件としたことにより「安全性は十分確保し得るものと認める」として設置許可を取得している。
1993年10月、「北海道南西沖地震津波」を踏まえ、最新の安全審査における津波安全性評価内容を基に改めて既設発電所の津波に対 する安全性評価を実施するよう、国から指示があった。これを受けて、1994年3月、福島第一及び福島第二原子力発電所の津波に対する安全性評価結果報告 書を国へ提出した。
報告書には、簡易予測式による津波水位が相対的に大きかった津波について数値解析した結果、福島第一及び福島第二原子力発電所におけ る歴史上最大の津波は1960年の「チリ地震津波」であり、「慶長三陸津波」(1611年)よりも大きかったこと。 津波による水位の上昇、下降に対する発電所の安全性は確保されていること。文献調査から阿部壽 氏らの論文※などを踏まえ、「貞観津波」(869年)は「慶 長三陸津波」(1611年)を上回らなかったと考えられることも記載している。

  • 阿部壽・菅野喜貞・千釜章『仙台平野における貞観11年(869年)三陸津波の痕跡高の推定』(地震 2、43、pp.513-525、1990年)
    報告書は、同年6月に当時非公開で開催された通商産業省原子力発電技術顧問会で了承された旨、口頭で連絡を受けた。
    2002年2月、原子力発電所の具体的な津波評価方法を定めたものとしては唯一の基準となる「津波評価技術」が土木学会から刊行された。
    新耐震指針(2006年9月)にもとづき耐震バックチェックの指示が国から出された。その最終報告に向けて2009年2月に、津波の 想定を見直した。最新の海底地形と潮位観測データを考慮し、「津波評価技術」にもとづき再評価した結果、福島第一原子力発電所における津波の水位は O.P.+5.4-6.1mとなり、その津波高さに応じて、ポンプ用モータのシール処理対策などを講じた。
    (2)津波に関する関連機関などの主張と当社の対応

2002年7月に国の「地震調査研究推進本部」(地震本部)が、三陸沖から房総沖の海溝沿いのどこでも地震が発生する可能性があると いう地震の長期評価(以下「地震本部の見解」)を公表した。有史以来大きな地震が発生していない領域(福島県沖の海溝沿い)でもM8.2前後の地震が発生 する可能性があるという。ただし、今回のような複数の領域が連動した大規模地震は想定せず、津波評価に必要不可欠な「波源モデル」も示していなかった。
2008年に当社は、耐震バックチェックにおいて、地震本部の見解を具体的にどのように扱うかを検討するための参考として、仮想的な 試し計算を実施した。波源モデルが定まっておらず、想定される地震規模(M8.2)とも合致しないが、福島サイトに最も厳しくなる「明治三陸沖地震」 (M8.3)の波源モデルの場合、福島第一原子力発電所の取水口前面で、津波水位は最大O.P.+8.4m-10.2m、1-4号機側の主要建屋敷地南側 の浸水高は最大で15.7mの津波の高さが得られた。
中央防災会議は、2003年10月に「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会」を設置し、2006年1月に被害想定に 関する報告書をとりまとめた。日本海溝沿いについては、三陸沖の地震は想定しているものの、福島県沖~房総沖についての「地震本部の見解」は反映されず、 検討の俎上にも上っていない。
「貞観津波」については、2008年10月に独立行政法人産業技術総合研究所(当時)の佐竹健治 氏から869年の貞観津波に関する投稿準備中の論文について提供を受けた。
論文の中で提案されている2つの波源モデル案を用いた試し計算を実施した。福島第一、福島第二原子力発電所の取水口前面で O.P+7.8m-8.9m(満潮位の考慮方法を変更するとO.P.+7.8m-9.2m)の津波高さが算出された。また、福島県沿岸等の津波堆積物調査 の実施を計画した。
2009年6月、「地震本部の見解」の扱いと合わせ、津波評価を行うための具体的な波源モデルの策定について土木学会へ審議を依頼した。
貞観地震による津波の影響の有無を調査するため、当社は福島県の太平洋沿岸において津波堆積物調査を実施した。福島県北部では標高 4m程度まで貞観津波による津波堆積物を確認したが、南部(富岡~いわき)では津波堆積物を確認できなかった。試し計算に使用した波源モデル案とは整合し ない点があることから、さらなる調査・研究が必要と考えた。津波堆積物調査の結果については、2011年1月に論文として投稿し、同年5月に日本地球惑星 科学連合2011大会で発表した。
社内では、三陸沖海溝沿いの波源モデルを福島県沖海溝沿いの波源モデルとして試し計算し、津波対策について2008年6月、7月に武 藤栄原子力・立地本部副本部長(当時)、吉田昌郎原子力設備管理部長(当時)らに説明した。発電所沖合に防波堤を設置する場合、建設費は数百億円、工期も 意思決定から防波堤完成まで約4年。この対策が実際にできたとしても、海水ポンプが設置されている敷地レベル(O.P+4.0m)で水位の低減は1-2m 程度と説明した。ただし、防波堤を長くすれば建屋敷地レベルへの遡上は大幅に軽減され、建屋敷地レベルに数mの防潮堤設置で対応できるとした。
武藤副本部長、吉田部長の判断として、土木学会の「津波評価技術」による評価は保守性を有しており、原子力発電所の安全性は担保され ていることや、地震本部の見解には具体的な波源モデルもなく、即座に津波高への影響が定まるものではないことなどから、土木学会の専門家に検討していただ き、明確にルール化した上で対応すること。それまでは現行のルールである土木学会の津波評価技術に従って評価することなどを決定した。
「地震本部の見解」や貞観津波への対応については、当社は適宜、関係官庁である文部科学省や原子力安全・保安院と意見交換や説明をしている。
原子力安全・保安院からは、今すぐ対策を実施するようにとの指示は受けていない。当社としても求められれば、津波堆積物調査結果など で判明した福島県沿岸の津波遡上高さなどから、佐竹 氏ほかの提案する貞観津波の波源モデルの改良やより詳細な調査が必要である旨を説明することを考えてい た。
《(社内)関係者の認識》

「地震本部の見解」も「貞観津波」のモデルも確固たる津波計算をするには情報が不足している。
試し計算で算出した津波高さの数値は、仮想的な条件で算出したもので、実際には起こらない津波高さ(蓋然性のない津波高さ)である。十分な余裕を有している。
実務(耐震バックチェック)での取り扱いを土木学会で審議してもらい、その結果を原子力発電所の標準的な津波評価方法である「津波評価技術」に反映してもらうことが筋である。
このような状況を打開するため当社は自ら動き、国の中央防災会議を含め誰も考慮していない知見の波源モデル策定を第三者機関である土木学会にお願いしていた。
原子力安全・保安院には、地震発生直前の2011年3月7日にも試し計算結果を説明している。間接的かもしれないが、原子力安全・保安院は貞観津波に対する関心を持っていた。
想定することが適切な脅威の程度(地震や津波についての具体的基準)について、知見の集約(収集・評価、総括)能力の高い専門研究機関である国の組織が統一的な見解を明示し、適宜見直す体制作りが望まれる。
(3)スマトラ島沖地震以降の我が国の地震・津波の評価

2004年12月26日に発生したスマトラ島沖地震〈M9.1〉は1000km以上の範囲でずれが生じ、巨大エネルギーが解放され た。我が国周辺の地震動において、国の地震本部や中央防災会議といった政府の専門機関も、スマトラ島沖地震並の震源の連動を想定していなかった。
(4)建屋敷地高さ

経済産業省所管の独立行政法人原子力安全基盤機構の報告書()において、プラントに津波が到達するほどの高 い津波の場合、安全上重要な施設に被害を生じ炉心損傷に至ることが報告されている。しかし、この評価は高い津波が施設を冠水させた場合を前提とする影響評 価であって、その様な津波が発生する可能性について検討したものではない。当社は、土木学会の「津波評価技術」に基づき評価した津波水位に基づいて必要な 対策を講じてきていた。 地震に係る確率論的安全評価手法の改良 BWRの事故シーケンスの試解析」(2008年8月)、「平成21年度地震に係る確率論的安全評価手法の改良 BWRの事故シーケンスの試解析」(2010年12月)

第4章 安全確保への備え(地震・津波を除く)

広範囲・長期間の停電や公衆被害などにつながる重大災害対策に、全社を挙げて取り組んできた。
原子力部門においては、原子力災害リスクの低減に向け、国や専門機関が定める技術基準等を満たす設備設計・対策を実施するとともに、過去の自 然災害や国内外の事故事象などの知見を、適宜、発電所の設備・運転に反映し、原子力安全の更なる向上に向けた取り組みを継続的に実施してきた。また、発電 所運営においても、世界の良好事例との比較・検証を行うなどして運営の品質向上に努めてきた。
〈シビアアクシデントへの備え〉

1979年に米国スリーマイルアイランド(TMI)事故、1986年にチェルノブイリ4号機の事故が起きた。原子力安全委員会は「発電用軽水 型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて」(1992年5月)を決定した。それを受けた通商産業省(当 時)からのアクシデントマネジメント整備要請(1992年7月)に基づき、事業者は、1994年から2002年にかけて、多重な故障を想定しても「止める」「冷やす」「閉じ込める」機能が喪失しないよう多重性、多様性の厚みを増すアクシデントマネジメント策を整備した。
当社としても、1992年にアクシデントマネジメント整備にかかる状況、対応方針などについて経営会議に報告し、その方針に基づき、具体的な設備対策について原子力部門内にて詳細検討・評価し、本部長の承認を得て工事を決定・実施してきた。
当社を含むBWR(沸騰水型原子炉)を有する電気事業者は、アクシデントマネジメント策の一つとして、圧力抑制室からの「耐圧強化ベント」を 整備した。これは、残留熱除去系などによる格納容器の熱除去ができず、格納容器圧力が最高使用圧力を過度に超えるおそれのある場合に、格納容器の破損を防 ぎ、外部への放射性物質の放出を抑制することを目的に整備したものである。
「耐圧強化ベント」時には、圧力抑制室にある水によって大気中の放射性物質の大部分が除去され(スクラビング効果)、圧力抑制室の気相部から耐圧性を強化した配管を通じて格納容器内の気体が放出(ベント)される。
欧州の原子力発電所で採用しているフィルタ装置付きのベント(「フィルタベント」)も同様の効果を狙ったもので、放射性物質を除去する媒体と して水以外にも砂や金属、それらの組み合わせを採用している。これらフィルタベントの性能は、エアロゾル状の放射性物質を1/10-1/1000程度(除 染係数〈DF〉で10-1000程度)に減少させる効果がある。
米国では、福島第一原発1-5号機と同じマークⅠ型の格納容器をもつBWRプラント、及び一部の(同原発6号機と同じ)マークⅡ型格納容器を もつBWRプラントにおいて、米国の原子力規制委員会(NRC)が1989年に発出した「Generic Letter389-16」に基づき、日本と同様の耐圧強化配管を経由したベントを採用している。
当社では、耐圧強化ベントの導入に先だって、国内でBWRプラントを保有する電気事業者と共同で、欧州のフィルタ装置も含め、放射性物質の除 去効果に関する体系的な研究を行った。その結果、事故後の状況により効果が変わるので一意に決められるものではないが、炉内から圧力抑制室の水中に放出す ると、エアロゾル状の放射性物質を1/1000程度(DFで1000程度)に減少させる効果があることを確認し、その上で、圧力抑制室からの耐圧強化ベン トをアクシデントマネジメント策として採用した。
〈確率論的安全評価(PSA)の取り組み〉

確率論的安全評価(PSA)については、原子力発電所が事故に至る事象の組み合わせ(事故シーケンス)とその発生確率、事故の影響やリスクなどを体系的に評価するものであり、リスク低減策についても個々に安全への影響度を定量的、相対的に評価することができる。
外的事象については通商産業省から求められるまでもなくPSAについて、既に取り組んできていたが、外的事象の中でも比較的研究の進んだ地震についてさえ具体的な評価手法としては確立されておらず、津波についてはより一層対応が困難な状況だった。
〈アクシデントマネジメント策と今回の事故〉

今回の津波の影響により、これまで国と一体となって整備してきたアクシデントマネジメント策の機器も含めて、事故対応時に作動が期待されてい た機器・電源がほぼすべて機能を喪失した。このため、現場では消防車を原子炉への注水に利用するなど、臨機の対応を余儀なくされ、事故対応は困難を極める こととなった。このように、想定した事故対応の前提を大きく外れる事態となり、これまでの安全への取り組みだけでは事故の拡大を防止することができなかっ た。結果として、今回の津波に起因した福島第一原子力発電所の事故に対抗する手段をとることができず、炉心損傷を防止できなかった。

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