日本学術会議東日本大震災対策委員会の「エネルギー政策の選択肢分科会」が24日、興味深い提言(27日に一部字句修正)を公表した。
提言には6つの選択肢が掲げてある。以下の通りだ。
- 速やかに原子力発電を停止し、当面は火力で代替しつつ、順次再生可能エネルギーによる発電に移行する。
- 5年程度かけて、電力の30%を再生可能エネルギーおよび省エネルギーで賄い、原子力発電を代替する。この間、原子力発電のより高い安全性を追求する。
- 20年程度かけて、電力の30%を再生可能エネルギーで賄い、原子力発電を代替する。この間、原子力発電のより高い安全性を追求する。
- 今後30年の間に寿命に達した原子炉より順次停止する。その間に電力の30%を再生可能エネルギーで賄い、原子力による電力を代替する。この間、原子力発電のより高い安全性を追求する。
- より高い安全性を追求しつつ、寿命に達した原子炉は設備更新し、現状の原子力による発電の規模を維持し、同時に再生可能エネルギーの導入拡大を図る。
- より高い安全性を追求しつつ、原子力発電を将来における中心的な低炭素エネルギーに位置付ける。
以上、6つの選択肢について「エネルギーの選択肢をめぐる国民的な議論が、世界の状況および技術レベルが急速に変化している中、最新で正確な国内外の情報を踏まえ、定量的なデータに基づいて供給の安定性、環境への影響、経済性などの多面的な観点から、総合的に、開かれた形で進められるべきだ」と提言している。だが、分科会がこれまでどのような検討を行ったかについての詳しい記述がないのが気になる。
公表の段階で、これまでの検討結果を報告した部分の公表が見送られたようだ。この公表されなかったと思われる部分を盛り込んだ記事が、提言が公表された日、24日付の「科学新聞」に載っている。
「これまで、風力発電や太陽光発電は不安定なエネルギーだから蓄電池をかませないと使い物にならない、ということが言われていた。だが、ドイツやデンマークでは、水力や火力で電力を調節しているため蓄電池はほとんど使っていない。日本の場合、原子力をベースに火力や水力で電力を調節している。原子力を再生可能エネルギーで置き換えた場合、…火力や水力で調節すれば、安定的なエネルギー供給は可能になる」
「水力、火力と比べ、原子力が最も安いと言われていたが、核燃料サイクルにかかわるコストや補助金、さらに現在は水力発電に分類されている揚水発電も原子力のためにあることから、そのコストも原子力のコストに入れるべきだ」
このほか原子力をすべて太陽光発電で置き換え、電力会社が太陽光発電で生み出された電力をある価格で買い取った場合、1世帯当たりの電気料金負担増は年間いくらになるか、といった試算値も書かれている。
どうしてこうした検討結果を提言と共に公表しなかったのだろうか。「現在までの検討結果」と明記し、後で修正が必要になったらそうすればよい。経済産業省や電力業界がこれまで示していた発電コスト試算を信用できない、と考える一般国民は相当いると思われる。日本学術会議内にも原子力発電をよしとする人はいるだろう。そういう人たちがあらためて試算、検討した結果も含め、原子力発電について一般国民がきちんと考えることができる判断材料を日本学術会議は早急に示すべきではないだろうか。