レビュー

「内向き志向」批判より大事なことが?

2011.01.14

 黒川 清・政策研究大学院大学 教授(前日本学術会議 会長)の寄稿「休学のすすめ 海外出る若者応援しよう」が、14日の朝日新聞朝刊・私の視点欄に載っている。海外へ留学する大学生が減っていることを嘆くより、若者の留学を後押しする方策を考える方が大事という主張だ。

 成人の日(1月10日)に各新聞に載った社説は、いずれも成人式を迎えた若者を力づけるトーンにはなっていた。しかし、若者が内向きになっている現実を前提にしているような記述も見える。「電車でゲームや携帯に没頭する君たちを見ると大丈夫か、と心配が先に立つ。世間の情勢を知れば、暗くなるからと、現実から目をそむけていないかと疑いたくもなる」(朝日新聞)、「今の若者は、バブル崩壊後の90年代に育ち、時代の閉塞感を敏感に受け止めて来た世代でもある。安全で確実な道を歩みたい気持ちが強いのかもしれない」(読売新聞)。

 「今の若者は内向きだといわれる」とまずは書いて、「若者が海外勤務を避ける一因も企業内の処遇にあるといわれる。海外で得た知識や経験を生かせないような状況が若者の萎縮を生んだとすれば、企業の責任は大きい」と上の世代の責任を問う日経新聞の社説もあったが…。

 黒川氏は、昨年12月16日に政策研究大学院大学で開かれたシンポジウム「アジアとの共創の時代に向けて」で、「(今の若者の)親たちは米国に行ったりしたかもしれないが、それは会社の命令でそうしたに過ぎない。外国に行けば自分も出世できるのではないか、という『終身雇用、年功序列』神話のもとに行っただけだ」と、問題の根はむしろ今の若者の親たち以上の世代にあることを厳しく指摘している(2011年1月11日ハイライト・黒川 清氏・政策研究大学院大学 教授、前日本学術会議 会長「休学のすすめ-日本が求める人材とは」参照)。

 さらに「若者の『内向き志向』はつくり話」と切って捨てる人もいる。元世界銀行副総裁の西水美恵子氏だ。毎日新聞11日朝刊の連載記事「明日への視点」で次のように言っている。

 「『自信喪失した日本人』と書き立てているマスコミや政治家、大企業の社員が自信を失っているだけなんじゃないですか?」

 西水氏は、こうした自信を失っている人たちのことを「元気がない上に危機感もない。大企業や官僚組織で終身雇用と年功序列に守られているからです。要するに甘やかされているんです」と容赦ない。

 では、当の若い人たちはどのように今の状況を見ているのだろうか。

 黒川清氏のオフィシャルブログ「休学のすすめ - 若者は内向きなの?」でも紹介されている榎木 英介・NPO法人サイエンス・コミュニケーション 理事の1月11日付サイエンス・コミュニケーション・ニュース巻頭言「『若者は内向き』の欺瞞」が、少なからぬ若者の気持ちを代弁しているかもしれない。

 榎木氏は、米国で挑戦しノーベル賞を受賞した根岸英一氏や米国で教授までなった黒川清氏たちが言うのは分かる、とした上で「若者の内向き志向」という批判に反論する。

 「留学経験者に問いたい。あなたは『片道切符』で行ったのか。会社や官公庁のお金で留学したのではないのか。また、戻ってくるポジションがあって留学したのではないのか。言いたいのは、『リスクを負わない若者』ということを言っている人たちが、リスクを負って行動したのかということだ。もう一点言いたいのは、果たして今の日本は、リスクを負って行動した人たちを尊重する社会なのか、ということだ」

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