日本の学術論文数はこの10年間横ばい状態にあり、世界に占めるシェアも下がっているだけでなく平均被引用数も依然、世界平均を下回ったままだ、という報告書を国際情報企業「トムソン・ロイター」が公表した。
これを紹介した7日付ニュース「論文から見た日本の研究業績低迷明らかに」と、その5日前の2日に掲載したレビュー「基礎研究強化より難しい問題」を読み比べて、首をひねった読者はいないだろうか。レビューが引用した総合科学技術会議基本政策専門調査会の「科学技術基本政策策定の基本方針」(案)に、次のような記述がある。
「この10年で8人の日本人研究者がノーベル賞を受賞したほか、iPS細胞の作製や鉄系超伝導物質の発見など、これに続く世代の研究者が画期的な研究成果を創出してきている。また、論文被引用数で世界トップに躍り出る日本人研究者が次々と現れている」
北澤宏一 氏・科学技術振興機構理事長は、この1、2年講演のたびに「日本の基礎研究が世界の研究全体のトップ賞をとる時代になった」ことを強調している。鉄系超電導物質・透明導電体の細野秀雄 氏・東京工業大学教授が2007-08年に、また自然免疫の審良静男 氏・大阪大学教授が04-05年と05-06年の2年続けて論文被引用数で世界一だったことや、iPS細胞の山中伸弥 氏・京都大学教授が米科学誌「サイエンス」の08年10大ニュース1位に選ばれたことなどを根拠として挙げている。
こうした国内の見方とトムソン・ロイターの報告書「グローバル・リサーチ・レポート日本」の評価にずれがあるように見えるのはなぜか。同報告書によると「すべての分野を合わせた全体的な相対被引用インパクト(1論文当たり被引用数を1論文当たり被引用数の世界平均で除したもの)を見ると、日本は05-09年に世界平均を2%下回っている。日本の05-09年の全体的な相対被引用数は過去30年間で最高だが、それでもイタリア(G7中6位)を約20%、米国(G7中1位)を約46%下回っている」という。
この理由について報告書は次のように書いている。
「一般的に被引用数の分布は極端に偏るものであり、高被引用論文(highly-cited papers=発表年と分野別の被引用数で上位1%に入る論文)が全体の被引用数の平均を大きく引き上げるという特徴がある。日本は、他のG7諸国に比べると、高被引用論文が比較的少ないようだ。例えば、2000年以降、米国は論文数の1.8%が高被引用論文。英国、カナダ、ドイツ、フランス、イタリアはそれぞれ1.8%、1.4%、1.4%、1.2%、1.1%だ。これに対し、日本の高被引用論文は全体の0.7%にすぎない」
全体の論文被引用数平均を引き上げる役割を担う高被引用論文の数が、他の先進国に比べて明らかに少ないことが、論文から見た場合に日本の研究業績が低迷しているように見える大きな理由ということのようだ。
北澤氏は「論文のシェアが下がっているのは、他の先進国も同じ。光っている日本の研究者は増えている。画期的な研究成果を挙げられるのはそもそもごく少数の研究者だけ」と意に介していないが…。