レビュー

編集だよりー 2007年7月16日編集だより

2007.07.16

小岩井忠道

 台風のため帰京を1日延ばしたおかげで、旧友の家を訪ねた日が、たまたま命日と重なった。編集・製本に1年かかった高校の運動部の創設80年記念誌がめでたく完成、2日前の14日、水戸で盛大な刊行記念パーティーが行われたばかりである。4人いた同級のチームメートのうち、この友人だけが亡くなっていたので、できたばかりの記念誌を姉上に届けたというわけだ。中学の時はテニス部員でバスケットボールとは全く縁がなかったのに、マネージャーがいなかったため、無理矢理引き込んだ友人だった。

 小学5年の時、この友人を担いで児童会長選を戦いあえなく敗れたことを思い出す。担任に怒られるからだれかが出ないと。この程度にすぎない心がけの上、実は最初から勝負にならなかった。ほとんどのクラスが男を立てたために男の候補者の票は見事に分散、これに対し、圧勝した女生徒が女生徒の票を恐らく独り占めしてしまったと思われるからだ。その上、この女性候補は、選挙違反まで犯していた。規定枚数よりはるかに多いポスターを学校中に張り巡らしたからだ。

 「多く作ってしまったというので、捨てるのはもったいないから、と許した」。選挙管理委員会を指導する女教師は職員会議で釈明したらしい。さすがに、多くの教師たちを同意させることはできなかったらしく、突然再選挙ということになった。何の理由も生徒には説明されずにである(問題の女教師は選挙担当をはずされたが)。

 しかし、1度、大量のポスターで顔を売り、圧勝してしまった女性候補に太刀打ちできる候補などなく、結果が変わるはずもない。選挙違反の話はすべてが決着した後、どこからともなく伝わってきた情報である。

 児童会長など照れくさくてやってられない。こんな人間が多い土地柄だろうか、この異常事も、生徒の間ではその後、ほとんど話題にもならなかったように思う。

 そういえば旧友の姉上は、われわれが小学3年生の時、児童会長をしていた模範的な優等生だった。弟思いの姉上とひとしきり昔話をした後、レストランに出かける。中学時代の同級生が夫、息子と何年か前に始めた店だが、人気があるらしく満員だった。小柄なのにバレーボール部のエースアタッカーで、陸上競技の対外試合ではいつも400メートルリレーの第一走者、さらに文化祭の劇ではいつも重要な役で活躍するスターだった。

 今でもアマチュア劇団で活動しているという彼女が、劇団の主宰者が最近、書き下ろしたという台本を見せてくれた(本人はこんな台詞は覚えられないと出演を断ったそうだが)。反原発劇である。表紙の裏に聖書の一節が引かれていた。ある時、どこそこに天体が落下し、河川がニガヨモギで汚染されて…、といった内容である。チェルノブイリというのはニガヨモギの意味だから、まさにチェルノブイリ原発事故は聖書でも予言されていたおぞましい出来事、という意味のようだ。

 初めて知る話だった。台本の最後に参考図書が羅列してあったので、その中のどれかにでも書かれているのだろうか。帰京後、フリー百科事典ウイキペディアで引いてみたら、確かに「チェルノブイリ」はヨモギの1種を指す言葉だと書いてあった。

 同時に「しばしば『チェルノブイリはウクライナ語(あるいはロシア語)でニガヨモギ』などと言われることがあるが、正確ではない」とも。

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