レビュー

編集だよりー 2007年7月6日編集だより

2007.07.06

小岩井忠道

 グランディーバ・バレー団の公演というのを東京厚生年金会館で初めて観て、すっかり感心してしまった。20人近いダンサーのうち、最初から最後まで男の装いで踊るのは1人だけ(なぜ、この人物だけ男を通すのかはわからない)。残りは全員、男性が女性として踊るのである。男役が必要なときだけは男にもなるが。

 普通のバレーを見慣れた人なら、パロディの面白さがきっとよく分かるから、さらに面白いだろうと想像する。しかし、本来の踊りをほとんど見たことのない人間でも、十分、堪能できる。出演者たちの技量が並大抵でないからに違いない。長身から小柄、やや太めなどいろいろな体型のダンサーがおり、それぞれが達者な踊りを見せてくれる。特に一際長身のダンサーが女性として踊る迫力は、多分、女性がまねしようとしても難しいのではないだろうか。

 プログラムの公演日程を見て、再度驚く。4月23日の松山を最初に8月5日の最終公演まで3カ月半、九州から北海道と日本全国、62回もの公演が続いている。体力も抜群ということだろう。

 客席を見回すと、女性ばかりで男は数えるほどだった。女性の年代はさまざまで隣の若い女性は小学生くらいの女の子と一緒に来ていた。前の列は60歳くらいの女性のグループだ。終了後、主演者全員が勢揃いしたカーテンコールは、出演者たちに花束を手渡す観客が次から次と現れ、なかなか終わらなかった。

 コメディ・バレーがこのように人気を集める、あるいはパロディを楽しむファンが増えるというのは、文化が習熟していることの裏付け。なんて言った識者がいるかどうか知らないが、何となく、そんな気がしてくる。舞台上のダンサーたちと観客の関係が、えらく近い印象なのだ。

 多様性の尊重というのが、とりわけ今の時代に必要とされているように思える。グランディーバ・バレー団のファンのような人々は、そんなことはとっくに理解しているのではないか、という気もしてきた。人からあれこれ言われなくても。

 となれば、男の観客がチラホラしか見あたらなかった現実は、どう考えたらよいのだろうか。編集者と同様、たまたま舞台を見る機会がなかったから面白さにも気づいていないだけ、と思うことにしよう。

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