レビュー

編集だよりー 2007年5月27日編集だより

2007.05.27

F.E

 ビールがまことに美味しい季節となった。東京・六本木ヒルズで5月24〜27日に開かれた「ビアフェス2007」には、ビールメーカー5社のトップが呉越同舟で揃い、販促イベントを盛り上げた、とメディアが報じた。そこでビール談義をひとくさり。

 ビールに好ましくも微妙な味わいを添えるのが泡であり、いい味と香りを長持ちさせるのも泡であることは多くの人が認めるところであろう。インターネットで調べても、そのことはくどくどと書かれている。だがネットには、肝心の泡の正体を正しく記述したものがないように見受けられる。あいまいで、いまひとつよく分からない。要領を得ないのである。こういう身近な“科学”は明晰であればあるほどよろしい。

 結論から先に述べよう。ひとつひとつの微小な泡の「膜」は「分子量4万のたんぱく質」である。高分子たんぱく質だ。むろんそのたんぱく膜の合間には、ごく微量の金属イオンやホップ由来の苦味成分が含まれているが、本体はあくまでも分子量4万のたんぱく質。

 そのたんぱく質はビール原料の大麦からそっくり移行したものだ。後述するが、醸造過程で変化を受けなかった生き残り組というから、まことにしぶとく、粘っこい。

 分子量4万のたんぱく質の膜に包まれている中身は、気体の炭酸ガスとごく微量の空気。小さなガス気泡はビール上面に上がって凝集し、あのような純白の塊となってビール党の目を楽しませてくれるのである。

 このことが突き止められたのは19年前で、サッポロビールの研究者たちのお手柄だった。苦労話が少しある。

 膜の成分が圧倒的にたんぱく質であろうことは、それまでに分かっていた。問題はどんなたんぱく質か、であった。長く膜である続けるためにはまず、粘り気(粘性)が強くなければならない。それにビールのほとんどは水だから、膜が水になじまない疎水性を持っていなければいけない。粘性と疎水性の双方が強いたんぱく質を探し出すという、当時の実験機器ではまさに粘っこさが必要な作業を、研究者たちは強いられた。

 全部を明かすと細かい専門用語を並べることになるのではしょるが、ビールに含まれるたんぱく質を分子量ごとに4分類して調べた結果、4万のたんぱく質が条件を満たしたのである。デンマークのビール研究者がその6年前、大麦の中に発見して命名した「プロテイン(たんぱく質)Z」とも一致した。つまり、大麦由来のたんぱく質であった。

 19年前、わたしが取材した実話である。ビールの肴になりましょうか?

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