レビュー

編集だよりー 2007年5月17日編集だより

2007.05.17

小岩井忠道

 「地殻変動」というキーワードで検索をかけると、一番、新聞記事で多く出てくるのは政治記事では? 「政界に地殻変動が起きつつある」といった…。

 というのは冗談だが、一時期、政治記事に上記のような表現がやたら目につき、気になったことを思い出す。文科系出身がほとんどの政治記者は、もともとは理数系の用語だった言葉を意外に使いたがるものかも。科学記事を書く記者(こちらは理科系出身が多い)の方は、できるだけ専門用語を使わないよう日々、頭を悩ましているのに、と。

 もっとも、編集者が当時抱いた思いは、すでにその当時ですら、世間常識とずれていたかもしれない。主な辞書には、本来の地学的説明に加えて、「政界に地殻変動…」という比喩的な使用例がきちんと表示されているようだから。そもそも「地殻変動」という表現を好んで使う政治記者が、本来は地学の用語だという認識を持っているのかどうかさえ、疑わしいということだろう。

 さて、よほどのことがない限り読み落とすことのない豊田泰光氏のコラム「チェンジアップ」(日経新聞朝刊スポーツ面に毎木曜掲載)に、またまた感心した。けさは、選手に活躍のチャンスを与えることの難しさについて、いつもながらの面白いエピソードとユニークな考察が述べられていたが、その中にこんなくだりがある。

 「成長が止まった大人なら、いろんな物差しをあてればおおむね正しい力が測定できる。しかし、加速度をつけて伸びつつある人を数字で判断するのは難しい」

 感心したのは、無論「加速度をつけて伸びつつある」という表現だ。

 思えば、加速度とか微分とか、かつて必要に迫られて頭に詰め込んだものの、いまやほとんど基本的な関連式も思い出せない。そんな物理や数学の概念がどれほどあるだろうか。それどころか、最初から本質を理解していたのかどうかすら、はなはだ疑わしい…。

 それやこれや考えても、結局は、あらためて脱帽ということになる。元西鉄ライオンズ・スター選手、豊田泰光氏の筆力と言葉に関する感覚に、またしても。
(日経新聞の引用は東京版から)

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