レビュー

編集だよりー 2007年5月8日編集だより

2007.05.08

小岩井忠道

 読売新聞6日朝刊文化面の「空想書店」という欄に、渡部潤一・国立天文台准教授が「星への想いさまざま」という文章を寄せていた。この中に印象深い挿話がある。

 「暮れ始める西の空に、ひときわ明るい星が輝いているのに気づいた方も多いだろう」。記事の書き出しに、「宵の明星、金星」のことだな、とはすぐ分かった。しかし、続く「清少納言も枕草子の中で、『星はすばる。ひこぼし。ゆふづつ…』と星の中では3番目に取り上げるほどであった」というのは、不勉強な人間としては初めて知る事実だ。

 金星にも見ごろの時季があり、西空に輝くそんな季節になると、天文台には「あの星は何か」という問い合わせが増えるという。「いましがた西の空を見上げたら、明るい星がありまして、あまりにきれいなものですから、名前を知りたくてお電話いたしました」。10年前の印象的な体験として渡部氏は、「とても明るく、落ちついた気品漂う声」の女性とのやりとりを紹介している。

 その直後に、今度は男性から「対照的に、追い詰められているような悲壮感漂う声」の電話があったというのである。「ものすごい光がずっと追いかけてきます。恐ろしい光です。一体なんでしょうか?」という。

 編集者が、昔書いた文章を引っ張り出してみる気になったのは、こちらの方の話からだ。

 この団体は、それなりの調査もしているらしく、UFOを見たという目撃者情報についてもいろいろ調べ、ことごとくうそか勘違いであったということも報告していた。その中でよく覚えているのが、民間航空機の操縦士の“UFO”目撃証言である。夜間飛行の時、よく光る大きな物体が航空機のそばから離れず、ずっとついてきた、というものだった。この操縦士も、不気味な思いにとらわれていたのだろう。渡部氏に電話をしてきた男性のように。

 似非科学を憂える団体の結論は、星(確か木星の可能性をあげていたと思う)を妙な飛行体と見間違っただけ。航空機のそばを離れず、ずっと追いかけられているかのように見えることもあり得る、というものだった。

 航空機のパイロットというのは、科学者、技術者、小、中、高校の理科や数学の先生などと同様、非科学的な話にやすやすと乗らないグループに入ると思われる。しかし、そういう人たちにして、このような思いこみに陥ることもある、ということだろう。

 渡部氏に電話をしてきた男性は、配送に携わる運転手ということだ。UFOの存在をはなから疑わない人も、あるきっかけですんなり信じてしまう可能性を持つ人も、簡単には減らないということだろうか。
(引用は読売新聞東京版から)

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