レビュー

編集だよりー 2007年5月1日編集だより

2007.05.01

小岩井忠道

 ウラン資源の安定的な輸入につながる合意がカザフスタンとの間で成立したことを伝える記事と並んで、もう一つ原子力関連の記事が毎日新聞の朝刊総合面に載っていた。

 「原発交付金 病院職員給与を補てん 福井県敦賀市 使途拡大裏付け」という字句が見出しに並んでいる。

 こういう切り口の記事が、相変わらず意味を持つのだなあ。原子力にかかわる記事を何度か書いたことのある元記者としては、懐かしく、気になる。

 原子力発電所に限らず発電用施設を抱える地元自治体および隣接の自治体には、電源3法と呼ばれる3つの法律にもとづく交付金や補助金が交付される仕組みが出来上がっている。財源は、電力会社が納める税金だ。対象は発電用施設だから、原子力だけに限った制度ではない。

 交付金の使途が限定されていたため、本当に地元のためになっているのかという議論があった。2003年10月からは、従来認められていた事業に加え、新たに地域活性化事業が交付対象事業に追加されている。地元にとっては、使い道が広がったわけだ。

 この「電源立地地域対策交付金」がどのように使われているかは、公表されており、経済産業省や文部科学省のホームページから簡単に知ることができる。

 2005年度の敦賀市の交付金事業として、保育園運営事業、健康管理センター運営事業、配水池整備事業などと並び、敦賀病院運営事業として総事業費約3億5,000万円のうち、約2億5,000万円が交付金で充当されていたことが分かる。

 毎日新聞によると「交付金のうち、3億3,600万円が事務職員や調理師ら現業職員57人分として使われていた」という。経済産業省や文部科学省のホームページで公表されている数字とは違う。市立敦賀病院職員の2005年度の給与に充てられていたという3億3,600万円が「電源立地地域対策交付金」だけから出ていたのか、あるいは別の交付金と合わせた額かは、記事だけからは分からない。

 そのことよりも、記者が問題視しているのは「原発立地による交付金で病院施設を整備したうえ、運営費も補てんする交付金漬けの実態が浮かび上がった」ことのようだ。運営費まで交付金に頼るのは健全な姿ではない、ということかもしれない。

 編集者の経験で言うと、敦賀市に高速増殖炉原型炉「もんじゅ」と新型転換炉原型炉「ふげん」を持つ日本原子力研究開発機構が、かつて、隣接自治体に使途を公表しない協力金を支出していたことがある。情報公開の要求を受けて、さて公開したものかどうか、ということになった。

 意見を求められたので、聞けば、地元から要請を受けた「ケーブルテレビのケーブル施設費」という。「堂々と公表すればいいのでは」と答えた記憶がある。

 そんなことを秘密にすることで、利益を受ける人間がいるとも思えないし、原子力施設と隣り合って暮らす上で、地域住民に相応の利益もあることを公表しない不利益の方がよほど大きいのでは、と考えたからだ。選挙の際、原子力施設に賛成の候補者を選ぶのも、反対の候補者を選ぶのも地元住民の判断だが、偏った情報しか知らされないまま投票が行われるとしたら、恐ろしい。

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