レポート

【SDGsを機に飛躍するアカデミア】 第3回国際的な指標 地域などとの連携に高評価続々

2023.03.16

茜灯里 / 作家・科学ジャーナリスト

 2015年から始まり達成年限が2030年のSDGsにとって、23年は折り返しの年となる。日本のアカデミアでのSDGsの活用は、キャンパス環境への導入、学生への教育、地域や他分野との連携などが行われおり、もはや取り入れていない組織はないと言える。その中には、世界の大学と比較しても国際的に高い評価を受ける機関が続々と現れている。

 国際的な評価にはいくつかの指標がある。今回は地域などとの連携が高く認められ、国際的な大学ランキングで躍進した北海道大学、京都大学と、ユネスコやUNCTAD(国連貿易開発会議)などの国連機関に評価された岡山大学を紹介する。

次世代リーダーが集まる若者の世界会議「One Young Worldサミット」のサテライトイベント誘致開催について報告する学生たち(令和5年2月2日、岡山大学津島キャンパス共育共創コモンズ)
次世代リーダーが集まる若者の世界会議「One Young Worldサミット」のサテライトイベント誘致開催について報告する学生たち(令和5年2月2日、岡山大学津島キャンパス共育共創コモンズ)

総合トップ20入りを果たした北大と京大

 「THE世界大学ランキング」で知られる英高等教育専門誌「Times Higher Education(THE)」は2022年4月、SDGsに特化した「THE大学インパクトランキング2022」を発表した。

 19年に始まったインパクトランキングは、大学側がSDGsの17の目標の中から高評価を得られると判断した分野にデータを提出して、自らエントリーする方式を採る。総合部門とSDG別部門があり、4回目となる今回は110の国・地域から過去最多の1524の大学が参加した。総合部門1位はオーストラリアの西シドニー大で、SDG6(水と衛生、部門1位)、SDG12(生産・消費、同2位)、SDG5(ジェンダー平等、同3位)などに対する取り組みが評価された。

 日本からは84校が参加し、総合部門のトップ200にはタイと並ぶアジア最多の7校(北海道大、京都大、広島大、慶応義塾大、神戸大、東北大、筑波大)がランクインした。過去3回のランキングでは日本勢最高位は京都大の48位(19年)だったが、今回は10位北海道大(前回101-200位)、19位京都大(前回101-200位)と、2校が過去最高を上回る成績を上げた。

 日本の大学で総合最上位の北海道大は、部門別でもSDG2(飢餓)で1位を獲得。SDG14(海の豊かさ、17位)、SDG15(陸の豊かさ、18位)、SDG17(パートナーシップ、12位)などでも高評価を受けた。15年にフード&メディカルイノベーション国際拠点を立ち上げ、22年には日本の大学初のスマート農業教育拠点(農水省)に選出されるなど、北海道大は地域に根ざした食に関する研究と取り組みに強みがある。インパクトランキングでの高評価は、大学の特長とSDGsのマッチングに成功した好事例と言える。

 総合トップ20入りを果たした京都大は、SDG2で3位、SDG9(産業と技術革新)16位、SDG14で15位と、部門別でも3分野でトップ20に入った。04年度から京都大学化学物質管理システムを全学に展開し、08年度からは「環境賦課金制度(各部局がエネルギー消費量に応じた金額を拠出する制度)」を導入してインセンティブによる省エネと温室効果ガス削減に取り組むなど、環境管理に対する先見の明が特徴的だ。京都の産学公が集う「京都超SDGsコンソーシアム」も主導し、省エネや創エネの具体的な社会実装にも力を入れている。

THEインパクトランキング2022の上位大学(https://www.timeshighereducation.com/impactrankings より)
THE インパクトランキング2022の上位大学(Times Higher Education より)

いち早く取り組んでUNCTAD初の提携先となった岡山大

 一方、SDGsやそれ以前から行なわれていたESD(持続可能な開発のための教育)への取り組みで、いち早く国際機関に評価され協働してきたのが岡山大だ。

 07年にESD推進を目的に掲げてアジア初のユネスコチェア※1に認定されると、大学院環境生命科学研究科と教育学研究科が中心となって、HESDフォーラム(国内高等教育機関のESDネットワーク)、ProSPER.Net(国連大学のアジア・太平洋大学院ESDネットワーク)、ASPUnivNet(ユネスコスクール支援大学間ネットワーク)などに参画した。岡山大が媒介機能を果たし、地域が連携して推進している「岡山ESDプロジェクト」は、16年にユネスコ/日本ESD賞※2を受賞している。

※1高等教育機関の国際ネットワークづくりの中核機関。シンクタンク、教育、地域連携、機関連携などの機能が期待される。
※2日本の財政支援でユネスコが実施している顕彰事業。2014年「ESDユネスコ世界会議」で創設された。

 17年に就任した槇野博史学長は、早々に「SDGsに関する岡山大学の行動指針」を策定した。槇野氏は、岡山経済同友会や地域の産官学金言(産官学+金融・言論)で構成される「おかやま地域発展協議体」にSDGs推進を呼びかけたり、国際機関とのパートナーシップの構築を進めたりした。さらに創立70周年にあたる19年を「SDGs経営元年」とし、「SDGs活動を通じたウェルビーイング大学経営モデル」を提案して、国連ハイレベル政治フォーラムで開催された「ESD for 2030」で報告した。

 同年、岡山大は「ESD教師教育世界大会」をヨーク大(カナダ)と共同開催した。藤井浩樹ESD協働推進センター長・大学院教育学研究科教授は「SDGs達成の鍵となるのはESDで、それには教師教育が大切です」と持論を展開する。

 岡山大は、20年には「STI for SDGs(SDGs達成のための科学技術イノベーション)」を担当するUNCTADの世界初の提携先大学となった。「途上国からの若手研究者のための博士課程学位プログラム」「途上国からの若手女性研究者のための共同研究・研修コース」の2つの人材養成プログラムを提供し、SDG4(質の高い教育)とSDG5に国際貢献している。

「途上国からの若手女性研究者のための共同研究・研修コース」を受講する女性研究者たち(岡山大学提供)。22年度は14人(南アフリカ8人、ガンビア2人、エジプト、エチオピア、タンザニア、フィリピン各1人)が参加した。
「途上国からの若手女性研究者のための共同研究・研修コース」を受講する女性研究者たち(岡山大学提供)。22年度は14人(南アフリカ8人、ガンビア2人、エジプト、エチオピア、タンザニア、フィリピン各1人)が参加した。

生涯教育が盛んな素地があり、ブランド化に成功

 岡山大の特徴は、地域にもグローバルにもアピールしてSDGsによるブランド化に成功しているところにある。

 「岡山は、江戸時代に日本初の庶民のための学校『閑谷学校』が生まれた土地。公民館における生涯教育も盛んで、現在はSDGs講習も行われています。子供から老人までSDGsにすっと入り込め、地域連携が進む素地はありました。国際的な評価は、これまでの本学のESDの成果や、国連にアクセスできる研究者がいたことも強みです」と横井篤文上席副学長は分析する。

 狩野光伸副理事・学術研究院ヘルスシステム統合科学研究科教授は、岡山の土地柄と異分野交流の活発さも影響していると感じており、「新幹線の駅があり、近くに農村、山村、漁村もあるコンパクトにまとまった豊かな土地。連携するときに『SDGs』の合言葉があると非常に分かりやすくなりました。地域発展協議体では、高校生と一緒にSDGsに取り組むTV番組、SDGsをキーワードに企業を紹介する『おかやまSDGsマップ』、地域のSDGsアワードなどが生まれました。大学が先導して、地域の皆様とともに変化させていくということができているのではないか、と若干自負しています」と、説明する。

トップダウンからボトムアップへ

 岡山大のSDGsへの取り組みは、ありたい未来像を想定してから現在やるべきことを考える「バックキャスティング方式」であり、大学執行部のトップダウンで行われたものだ。教職員や学生からの自発的行動や提案(ボトムアップ)によって学内で広がりを得るために、どのような工夫がなされているだろうか。

 「トップダウンとボトムアップがつながることが理想ですが、大学の全構成員がSDGs経営に向かって一丸になるというのは、本来あるべきではないとも考えています。個々の持つものや考え方はみな違いますし、その違いを活用するのが大学という場です。普及には、やりたいと思う感情と、やったことを認めてくれる制度の両方が必要だと思うので、令和2年から岡山大学SDGs推進表彰(学長表彰)と発表会を行ってきました」と狩野氏は語る。

 2月2日に行われた令和4年度の学長表彰では、学生有志による「One Young Worldサミットの世界同時中継サテライトイベント誘致開催を活用した地域一体型の国際ユース・エンゲージメント協働事業」「岡山食品ロス削減プロジェクト『のこり福キャンペーン』」、安全衛生部と安全衛生推進機構による「SDGs☓防災―地域との協働型防災訓練―」、医学部教員と大学病院医師による「ミャンマーにおける口腔がん検診」の4つの優秀賞ほか、8つの奨励賞が選出された。

 大学執行部は、注目されがちな研究者だけでなく職員にも光を当てたり、部局を超えてSDGsでお互いにつながったりすることが大事と考えているという。さらに学生に『自分ごと』としてボトムアップになる活動をしてもらうために、『SDGsアンバサダー制度』が用意されている。アンバサダーに任命されて企画が大学公認の活動とされると、様々な支援が受けられるようになっている。

岡山大学SDGs推進表彰の参加者(令和5年2月2日、岡山大学津島キャンパス共育共創コモンズ)
岡山大学SDGs推進表彰の参加者(令和5年2月2日、岡山大学津島キャンパス共育共創コモンズ)

大学は若手のインスピレーションを活用できる

 教員とSDGsの親和性に関しては、「研究者は、既にある法則を使って新しい知見が当てはまるかと判定することに慣れています。しかしSDGsは、最初にどうしたらいいのかという問いや感情があり、そこから一般化して解決法を見つけなければなりません。そこが取り組みにくいところなのかもしれません。けれど、『あなたの専門で教育やSDGsにどのように貢献できるか』は、年々、人事でも考慮されるようになっています」と狩野氏は考察する。

 SDGsによるブランド化で大学経営に成功している岡山大から、他のアカデミアや若者にアドバイスはあるだろうか。

 横井氏は「岡山大はSDGsを推し進める際に、大学執行部に40代メンバーを入れて自由に発言させました。これからは、アイデアや発想が資本を導く時代になります。今までの常識では良しとされなかった思想や若手のインスピレーションを活用し、大学が中立的に結合できたら、社会を先導する場を作れるはずです」と力説した。

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