レポート

市民と地域が一体となって静岡で「サイエンスピクニック2017」開催

2017.02.24

科学コミュニケーションセンター / 科学技術振興機構

 科学を楽しみ、科学の探究と普及に取り組む市民グループやボランティア、公共教育施設関係者らが一堂に集い、交流を深めながら活動の成果を広く紹介する「サイエンスピクニック2017」が、 2月 4、5日の2日間、主催者である「静岡科学館る・く・る」(静岡県静岡市)で開かれた。「サイエンスピクニック」は今年で7回目。5日は雨模様だったが企画ブースなどに親子連れや学生らが大勢訪れ、期間中の来館者は4千人を超えた。

 「サイエンスピクニック」は今回も「生物多様性シンポジウム」(静岡市環境創造課主催)と同時開催で、家族向けの参加体験型(ハンズ・オン)企画だけでなく、「生物多様性」や「食の安全」といった社会的問題を取り上げたミニトークやワークショップも行われ、多くの市民が集まった。注目を集めた企画ブースを中心にレポートする。

写真1「サイエンスピクニック 2017」会場の「静岡科学館る・く・る」とチラシの一部
写真1「サイエンスピクニック 2017」会場の「静岡科学館る・く・る」とチラシの一部

若者世代と地域の産学官コラボレーション

今回は静岡県内外から44の機関・団体がブース出展した(詳細は参照)。

 このうち7つのブースは、静岡県立焼津水産高校、同県立科学技術高校、学校法人静岡理工科大学静岡北中学・高校が出展した。焼津水産高校のブースでは同校海洋科学科の特性を生かした企画だった。水蒸気で進む船舶玩具の「ポンポン船」を手作りし、でき上がったら特設プールに浮かべて動かす体験コーナーや、ちりめんじゃこに混じったカニの幼生やタツノオトシゴの稚魚などの小さな生き物「チリメンモンスター」を探す体験コーナーが人気を集めていた。科学技術高校のブースでは、磁石や「超音響」と呼ばれる現象を遊びながら学べる企画が好評で同校の高校生が熱心に子どもたちに解説していた。

 静岡理工科大学静岡北中学・高校のブースでは、水環境や生息生物を紹介するだけでなく、ステージ上でミニトークをしていた。中学生が日本の在来種のカメと外来種のカメの違いを問うクイズを来場した子どもに出していたが、子ども目線の出題が好評だった。最初は来場者の呼び込みに苦心している様子の生徒も、実際に説明をしているうちに来場者に伝えるコミュニケーション力や積極性も向上していったように見えて、こうした企画に参加することの意義を感じた。

写真2 来場者対応する静岡県立焼津水産高校と科学技術高校の生徒 ミニトークをする静岡理工科大学静岡北中学の生徒
写真2 静岡県立焼津水産高校と科学技術高校の生徒 ミニトークをする静岡理工科大学静岡北中学の生徒

 公共施設出展者である日本科学未来館、箱根ジオミュージアム、京都大学野生動物研究センター/日本モンキーセンターは、いずれも出展ブースと同時にミニトークでの実演を展開した。どの企画でも若手科学コミュニケーターや学芸員の活躍が目立っていた。

 日本科学未来館のブースは題して「想像しよう、未来の乗り物!」。未来の自動車について「見た目(外観)」「エネルギー源」「新たな便利機能」の3つについて、子どもたちに絵を描きながら考えてもらう企画だ。用意された「ヒントカード」を使って想像力を働かせてデザインした未来の自動車の絵を描いてもらうというもの。「未来型ハイブリッドカー」「ハウスカー」「トランスフォーメーションカー」といったユニークな提案が集まり、提案はミニトークの場で発表された。担当した科学コミュニケーターの田代修平(たしろ しゅうへい)さんは「未来の自動車の課題解決策を子供たちと考え、子どもたちが出してくれた未来の自動車についていろいろと対話をした。彼らが自分で想像し、提案した未来の自動車が『本当に実現するのでは』と自身で実感してもらうことができた」などと手応えを語っていた。

 このほか箱根ジオミュージアムは、学芸員の山口珠美(やまぐち たまみ)さんによる身近な火山体験として偏光板を使った「キラキラ万華鏡作り」と模型による火山噴火実験を実施した。京都大学野生動物研究センター/日本モンキーセンターの大渕希郷(おおぶち まさと)さんは、生きた蛇などに実際に触れてもらいながら野生動物の魅力を学ぶ体験型企画を提供した。ミニトークのブースでは、担当者の巧みな語り口の説明に子供たちは目を輝かせて聞き入っていた。

写真3 未来館ブースとヒントカード
写真3 未来館ブースとヒントカード
「火山の噴火実験」と「野生動物学」ミニトーク
「火山の噴火実験」と「野生動物学」ミニトーク

 静岡市環境創造課主催の「生物多様性こどもシンポジウム」では、世界中の200を超える水族館に海の生き物を納入する「海の手配師」と言われる有限会社ブルーコーナーの髙木裕司(たかぎ ゆうじ)さんが招かれて「海の生き物大学校!」が開かれた。珍しい海の生き物を観察し、クイズに答えながらサメの赤ちゃんが卵の中で動く姿や、ウミウシの匂いを実際に体験する企画などがあり、来場者は生物の多様性と人とのつながりについて考える良い機会になったようだ。一方このような企画を主催した担当者も子供たちの好奇心に逆に刺激を受けた様子だった。

 8階会場には静岡県内をフィールドとして、自然や科学の楽しさを探究、紹介する活動をしている非営利の団体・個人、公共教育施設・研究機関の展示が集まっていた。静岡茶や竹、昆虫、海岸の石、絶滅危惧種のライチョウといった多様な素材を扱った幅広い企画は期間中を通じて混雑していた。「静岡には科学を身近に感じる土壌がある」。そう実感した2日間だった。

写真4 生物多様性こどもシンポジウム 8階「大浜海岸の石でmy宝石作り」ブース
写真4 生物多様性こどもシンポジウム 8階「大浜海岸の石でmy宝石作り」ブース

JST「見て納得!知ってワクワク!ザ・メイキング・ムービー」企画ブースの反響

 科学技術振興機構(JST)科学コミュニケーションセンターは、科学技術の最新情報を提供する総合WEBサイト「サイエンスポータル」をはじめ、4000本以上の科学技術の動画を無料配信しているWEBサイト「サイエンスチャンネル」や、季刊で発行して全国の小中高校に無料配布している科学教育誌「サイエンスウィンドウ」の3つの媒体を活用して科学技術の話題や成果などを広く発信している。今回JSTは「サイエンスチャンネル」と「サイエンスウィンドウ」の2媒体を紹介するブースを出展した。

 ブース内では「サイエンスチャンネル」から今回の来場者向けに厳選した11本の映像作品を上映。人気の高い映像を収めたDVDを希望者に配布した。

 上映された映像の中でも、日々の生活に身近な製品がどのような技術で作られていくのかが分かる「THE MAKING」シリーズが好評で、菓子や電車の製造過程を紹介した映像に多くの子供たちが釘付けになっていた。

 一方、教育関係者らには、元素の性質や発見の歴史などを通じて周期表を解説する「elements?メンデレーエフの奇妙な棚?」(本シリーズは漫画化され近日中に創元社から出版)や、日本各地の多彩な地形を空撮映像で紹介する「空から見た日本」などが、関心が高かったようだ。また、大人には、日本の伝統色に着目して江戸切子や九谷焼といった工芸品の制作工程を伝える「技の彩」シリーズや、地球内部の構造探検を映像化した「地球の中心“コア”への旅」が人気だった。

 科学教育誌「サイエンスウィンドウ」については、人の体や植物、宇宙を特集した「こども版」や別冊を中心に紹介し、関心を持った来場者に冊子を持ち帰ってもらった。中でも、ノロウイルスやインフルエンザの最近の流行などにより関心が高い「感染症」を扱った「もっと知りたい!感染症」や、光合成を扱った「葉っぱはどうして緑色なの?」はイラストが親しみやすく色鮮やかだったこともあり多くの子供たちの注目を集めた。これらは、子供に聞かれた時の「虎の巻」として使えるためか親世代や教育関係者の引き合いが多かった。

 また、別冊の「宙と粒との出会いの物語」は、カブリ数物連携宇宙研究機構機構長の村山斉(むらやま ひとし)さんによる宇宙論や、宇宙の起源、素粒子などを取り上げた高度な内容ながら最先端の科学者の解説が分かりやすく、出展参加の高校生や大人の来場者は知的好奇心を刺激されたようだった。また、この分野に興味のある子供たちも自ら冊子を手に取って熱心にページをめくる様子が多く見られた。(当日上映、配布された主な映像作品、冊子は末尾に直URLを記載)

写真5 JSTブース「見て納得 知ってワクワク ザ・メイキング・ムービー」の様子
写真5 JSTブース「見て納得 知ってワクワク ザ・メイキング・ムービー」の様子

 「静岡科学館る・く・る」の長澤友香(ながさわともか)館長によると、サイエンスピクニックは、2011年の初開催の前日2011年3月11日に東日本大震災が起きたために、直前になって開催の是非を迷ったという。しかし、「科学コミュニケーションを志す団体が一つでも出展を希望するならば」と開催に踏み切った経緯がある。2011年から7回目を数えて今年は44ブースという最大のブース数になった。「サイエンスピクニック」は科学を楽しむ静岡の市民のためだけでなく、市民と地域が一体となった「科学コミュニケーションネットワーク」の集大成の意義があるようだ。来年は3 月10日〜11日に開催される。

写真6 出展者に語る「静岡科学館る・く・る」の長澤館長
写真6 出展者に語る「静岡科学館る・く・る」の長澤館長

(写真とレポート JST科学コミュニケーションセンター 川添菜津子、石井敬子)

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