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緊急寄稿「福島原子力発電所作業員を守るために」(豊嶋崇徳 氏 / 九州大学病院 遺伝子・細胞療法部 准教授)

2011.03.31

豊嶋崇徳 氏 / 九州大学病院 遺伝子・細胞療法部 准教授

九州大学病院 遺伝子・細胞療法部 准教授 豊嶋崇徳 氏
豊嶋崇徳 氏

 日本を守るために福島第一原子力発電所で献身的な努力をされている作業員に対し、最大限の感謝の意を表明するとともに、彼らの安全のためにわれわれには何ができるのか考えた。作業員には被ばく許容線量が決められており、その範囲で作業される場合には安全である。問題は、突発的な事故が起きた場合であり、多くの労災はこのようにして起こる。

 被ばくした場合、生命に影響するダメージを受けるのはまず骨髄であり、さらに線量が上がるにつれ、腸管、そして他の重要臓器へとダメージが広がっていく。骨髄ダメージまでの被ばくであれば救命手段がある。これが自己末梢(まっしょう)血幹細胞移植だ。骨髄を超えた傷害の場合は残念ながら救命は困難となる。

 自己末梢血幹細胞移植とは、がんや白血病の治療として開発された方法で、あらかじめ正常な血液の源の細胞(造血幹細胞)を採取し、凍結保存しておいて、大量(造血できなくなるほど強い)の抗がん剤や放射線療法後に、解凍・点滴して患者さんに戻すと、幹細胞が骨髄に定着し、血を作り始め、回復する。いわば“移植”というより“輸血”といった方がイメージとして近い。

 わたしたちは、必要があればいつでもこの自己末梢血幹細胞の採取、保存の技術を提供する用意がある。日本造血細胞移植学会を窓口にして、全国で100余りの施設が協力を惜しまない姿勢を表明している。

 多くの場合、採取しても、使われない可能性がはるかに高い。いわば保険のようなもので掛け捨てになるのが望ましい。会社から海外出張に派遣される場合、会社が海外旅行傷害保険を掛ける行為に似たシステムである。使われる可能性は少ないのだからお金の無駄遣いであるという考えもある。しかし、命がけの業務に従事する作業員の命を守るためには無駄という概念はそぐわない。

 しかし注意すべき点がいつつかある。原子炉に極めて近いところで従事する作業員のみが対象であって、一般の方はそのリスクは低く必要はない。骨髄毒性を超えた多臓器ダメージの場合には有効性が期待できないため、万能の治療ではない。保存したからといってより危険な作業に従事していいわけではない。パニックをあおることなく、淡々とした冷静な対応が必要である点を明記しておきたい。

 今までの原発の被ばく事故の歴史では、被ばく事故後の対応となり、多くが不幸な結末に終わっている。今回は違う。今、目の前に現場に向かっていく作業員がいる。100あるリスクをたとえ99に下げるための努力であっても惜しむべきではないと考える。

九州大学病院 遺伝子・細胞療法部 准教授 豊嶋崇徳 氏
豊嶋崇徳 氏
(てしま たかのり)

豊嶋崇徳(てしま たかのり)氏のプロフィール
1961年生まれ。鳥取県立米子東高校卒。86年九州大学医学部卒、北九州市立医療センター内科副部長、岡山大学医学部付属病院助手、九州大学病院助教授などを経て現職。専門分野は血液内科学。日本造血細胞移植学会理事、日本輸血・細胞治療学会評議員。

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