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次世代型テレメータリングを -低炭素社会実現に向け関連業界協同で-(直江重彦 氏 / NPO法人テレメータリング推進協議会 理事長、中央大学総合政策学部 教授)

2010.04.28

直江重彦 氏 / NPO法人テレメータリング推進協議会 理事長、中央大学総合政策学部 教授

NPO法人テレメータリング推進協議会 理事長、中央大学総合政策学部 教授 直江重彦 氏
直江重彦 氏

 一昨年、米国のオバマ大統領は、景気浮揚策として「グリーンニューディール政策」を提唱した。その目玉として急がれているのが、電力供給量を最適にコントロールする次世代送電網(スマートグリッド)の構築だ。スマートメーターと称する通信機能付きの電力メーターを導入し、IT技術を活用して電力需要をきめ細かく把握することを目指している。米国では、スマートメーターを2013年には09年に比べ3倍強の2,600万世帯へ導入するといわれている。

 NPO法人テレメータリング推進協議会の前身であるLPガスIT推進協議会は、LPガス事業者、電機メーカー、システム事業者など約40社・団体で構成されていたが、1994年の設立以来、特にLPガス産業への集中監視システムの普及と有効利用を中心課題として取り組んできた。集中監視システムは、通信機能付きガスメーターに主として電池駆動の通信端末(NCU:Network Control Unit)を接続し、電話回線や無線回線を利用してガス事業者のセンターとデータ通信を行う。ガスの異常使用やガス漏れの警報監視による消費者家庭の安心・安全の確保と、毎月の検針業務の自動化、ガス切れの防止、配送合理化によるLP事業者の経営の効率化に大きく貢献している。

 現在、集中監視システムは、LPガス業界では全国約600万世帯で導入されており、都市ガス業界も合わせると、全国700万世帯以上に導入されている。「グリーンニューディール政策」に欠かせないスマートグリッドの基幹となる通信機能付きメーターシステムでは、米国と比べても後れを取っているわけではなく、技術、ノウハウを着実に蓄積している。

 スマートグリッドは、二酸化炭素(CO2)の排出削減のために世界的に導入が進む風力発電や太陽光発電などの天候で出力が左右される新エネルギーを円滑に利用するために欠かせないものであり、スマートメーターの導入やスマートグリッドの整備が全世界で加速している。日本でも鳩山政権の目標である2020年までに温暖化ガスを1990年比で25%削減するためには、自然エネルギーの導入を加速する取り組みが不可欠だ。既に東京電力や関西電力などが全世帯にスマートメーターの導入を行う検討やスマートグリッドの実証実験を始めた、と聞いている。

 ところで、前述のように、スマートメーターの導入はガス業界が先行している。この通信インフラを利用しない手はない。現状のままでは、ガス、電力、水道とテレメータリングの通信インフラが複数できることになり、国家的な損失につながりかねない。それぞれの業界の壁を乗り越えたテレメータリングインフラの共通利用が必要だと考える。

 そこで、LPガス推進協議会では、昨年11月から、集中監視システム新バージョンの検討・標準化を推進している。従来のLPガス業界の会員だけでなく、都市ガス事業者、水道事業者、電力事業者、それらの業界の電機メーカー・システム事業者など会員外からも広く参加者を募り、約50社・団体、70人からなる研究部会がつくられている。

 これは、まず各ライフラインのスマートメーターやそれらにつながる通信端末のインターフェース規格を統一することにより、テレメータリングインフラの相乗りを実現しようというものだ。テレメータリングの普及拡大による通信端末コストを低減するとともに従来のメーターの自動検針や警報監視だけでなく、各種警報機と接続したガス燃焼機器などの運転状況を監視することで、中毒事故を防止するといった多様なサービスの実現を目指している。

 また、今年2月1日には、協議会の名称をテレメータリング推進協議会と改名し、活動の範囲を拡大、各ライフライン共通の次世代テレメータリングシステムの実現を目指している。本会の主旨に賛同いただき、すでに複数の都市ガス業界の事業者や電機メーカーの入会があるなど、会員の増加が続いている。テレメータリング推進協議会では、今後ともテレメータリングシステムを社会インフラとして普及させ利用促進させるため、業界の枠を越えた取り組みを推進する予定である。

 環境省のホームページ(2008年度速報値)によると、家庭部門のCO2排出量は17,200万トンであり、日本全体の排出量の13%を超え、1990年比では35%も増加している。わが国の温暖化ガスの削減目標達成のためには、家庭部門のCO2をいかに削減するかが重要課題である。にもかかわらず、太陽光発電のように大規模な投資が必要なものを除くと効果的な対策がないのが現状だ。

 そこで、ガスを中心として導入の進んでいる集中監視システムをベースに低コストで各ライフライン共通のテレメータリングによるエネルギーの使用量やCO2排出量をモニタリングできる「見える化システム」の導入が必要になってくる。CO2削減成果に応じたエコポイントなどのインセンティブ制度が実現できれば、全世帯で家庭部門のCO2削減に向けた継続的かつ効果的な取り組みを推進することが期待できる。そのほか高齢化社会の進展にともないクローズアップされている独居高齢者の孤独死の問題についても、ガスや水道の使用量を計測することで防止が可能だ。

 テレメータリングの普及と応用技術を取り入れた次世代型テレメータリングシステムによる現代社会の諸課題の解決に向けた効果は非常に大きい、と考える。

NPO法人テレメータリング推進協議会 理事長、中央大学総合政策学部 教授 直江重彦 氏
直江重彦 氏
(なおえ しげひこ)

直江重彦(なおえ しげひこ) 氏のプロフィール
東京都立新宿高校卒、1964年国際基督教大学教養学部卒、66年同大学大学院行政学研究科修士課程修了。京都大学経済学部助教授などを経て、94年中央大学総合政策学部教授。同年LPガスOA推進協議会発足とともに理事長、2001年名称変更でLPガスIT推進協議会理事長、10年2月再度の名称変更でNPO法人テレメータリング推進協議会理事長に。専門分野は情報通信産業政策。著書・報告書に「第三セクター『日本の公企業』」(東京大学出版会)、「発展途上国における電気通信の役割」(電気通信総合研究所)、「近距離通話料制度のあり方に関する研究」(電気通信総合研究所報告書)、「ネットワーク産業論」(編著、放送大学教育振興会)。

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