オピニオン

さまざまの周年記念(尾池和夫 氏 / 京都大学 総長)

2007.05.02

尾池和夫 氏 / 京都大学 総長

京都大学 総長 尾池和夫 氏
尾池和夫 氏

 最近、60周年、50周年、40周年というように、節目を迎えた行事が身の回りに多く、いろいろの歴史を感じさせる。私の思い出を重ねて、それらを列挙してみたい。

 京都帝国大学は1897年の創立だから、今年は創立110周年である。東京大学は20年古く、130周年のお祝いである。早稲田大学も今年125周年を祝う。早稲田大学創立者の大隈重信は「人生125歳説」を持論としていたそうだから、たいへんめでたいお祝いである。

 戦後の改革で京都帝国大学が京都大学に改称したのは1947年10月だった。それから今年は60年となる。国立大学法人化から3年経過したところであるが、2008年(平成20年)度に暫定的な評価を行って、それを平成22年度からの第2期の予算に反映させようという方針が決まっている。今、その実施方法を巡って文部科学省などで検討が行われており、評価関係の仕事が忙しく、改称してから60年というようなことは話題にものぼらない。

 2007年1月23日は湯川秀樹博士の100年目の誕生日だった。昨年3月31日は朝永振一郎博士の生誕100年であり、第三高等学校と京都大学においてともに学んだ同級生であった両博士の業績を讃えて、京都大学は2006年度を両博士の「生誕100年の記念年度」と定めて記念事業を行ってきた。ノーベル賞の受賞者では、私のクラスメートの利根川進博士の受賞が1987年だから、今年で20年である。

 南極観測50周年を祝って、記念切手が発売された。1956年11月8日、第1次南極観測隊は、観測船「宗谷」で東京の晴海ふ頭を出航し、翌年1月29日、昭和基地を開設した。地球環境の変化を研究するために南極地域での観測が特に重要な役割を果たしている。とりわけオゾンホールの発見は、昭和基地での長い年月にわたるオゾンの継続観測があってはじめて得られた大発見である。南極観測では、1997年の39次隊で初めて2人の女性隊員が越冬してから、今年で10年になる。

 昭和基地では、2005年からの4年間で残置廃棄物をすべてなくす方針である。今年は、地球環境の問題を提起したレイチェル・カーソン(Rachel L. Carson)生誕100年の年でもある。DDTなどの合成化学物質の蓄積についての啓蒙活動の意義は大きく、1962年に発表した『沈黙の春(Silent Spring)』は大きな影響を与えた。今年の5月19日?26日、京都市左京区の思文閣会館でレイチェル・カーソン写真展が実施される。

 「霊長類研究の重要性に鑑み、その基礎的な研究をおこなう総合的な研究所(霊長類研究所、仮称)を速やかに設立されたい」という短い本文の日本学術会議の「勧告」から3年後、1967年6月1日、京都大学霊長類研究所が全国共同利用の附置研究所として発足した。今年、創立40周年を迎える。ヒト科4属の中でチンパンジーとゴリラ、オランウータン、ボノボが絶滅危惧種である。霊長類研究に永い経験を持つジェーン・グドール(Jane Goodall)さんが京都大学に来られたとき、私は「彼らのために京都大学に何ができますか」という簡単な質問をした。彼女は、「学問です」と短く答えた。

 地震学者の私としては1707年(宝永4年)の超巨大地震(マグニチュード8.6)と富士山噴火から300年を挙げておかなければならない。あと20年ほどで同じような超巨大現象が南海トラフに起きると予測されている。勇気を持たなくてはならない。

本記事は、「日経サイエンス誌」の許諾を得て2007年5月号から転載

京都大学 総長 尾池和夫 氏
尾池和夫 氏
(おいけ かずお)

尾池和夫(おいけ かずお)氏のプロフィール
1940年東京生まれ、63年京都大学理学部地球物理学科を卒業、73年京都大学防災研究所助教授、88年京都大学理学部教授、97年理学研究科長、理学部長、2001年京都大学副学長、2003年から現職。日本学術会議地震学研究連絡委員会委員長など地震防災にかかわる活動は、これまで多方面にわたる。「地震発生のしくみと予知」など著書も多数。

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