インタビュー

第5回「価値ある文化的景観」(石川幹子 氏 / 岩沼市震災復興会議 議長、東京大学大学院工学系研究科 教授)

2012.01.30

石川幹子 氏 / 岩沼市震災復興会議 議長、東京大学大学院工学系研究科 教授

「復興グランドデザインに愛と希望を」

石川幹子 氏
石川幹子 氏

津波で押し流される航空機! 東日本大震災による津波被害を伝える映像の中でも、仙台空港の様子に衝撃を受けた人は多かったのではないだろうか。滑走路の一部を含め、空港に接する宮城県岩沼市も津波で死者183人、家屋の全壊718戸、半壊1,310戸、被害のうち1,240ヘクタールという大きな被害を受けた。その岩沼市で「愛と希望」を掲げる復興計画が進んでいる。日本学術会議会員として、被災地に対する「ペアリング支援」をいち早く提言し、さらに岩沼市震災復興会議議長として「岩沼市震災復興計画グランドデザイン~愛と希望の復興~PDF」をまとめ、具体的な支援活動に取り組む石川幹子・東京大学大学院工学系研究科 教授に、郷里でもある岩沼市の復興状況について聞いた。

―対策の3番目に挙げられているのが農地ですね。これも難しい問題がいろいろあるかと思いますが。

農地が全部津波で塩害を受けました。もう一つまずいことに、ポンプ機能が全部破壊されてしまったのです。田に水を引くと今度は、内水による氾濫の恐れがあります。それで今年は稲の作付をやめる、要するに田に水を引かないということを決定したのです。これは、結果的に正しい判断でした。というのは、9月に台風が東北地方をも襲った時に堤防が決壊してしまったのです。再び水浸しになってしまいましたから、水田に水を引かなかったというのは正しい判断だったのです。水を引いていたら、堤防が決壊した水が加わって大水害になるところでした。

―空っぽだったので、浸水の被害も軽くて済んだということですね。

地震による地盤沈下が広い範囲で起きていましたから、海抜ゼロメートルの地帯が広がっているのです。その中で最も弱い泥炭地の所の堤防が決壊してしまいました。津波に追い打ちをかける水害でしたから、とにかく打ちのめされました。
農地で何をしたかというと、塩水に浸かっても大丈夫な作物を探しました。農家の方の協力でトマトをつくったのですが、それが大成功でした。NPOの皆さんの協力で土壌改良を行い、大変甘くおいしいトマトができたのです。糖度が8度あるだけでなく、海水のミネラル分もたっぷり含まれています。それでそのトマトを8月21日に東京に持っていきました。最初は売ろうと思ったのですが、私は商売が苦手なので、自分で買い、皆さんに配りました。そうしたら東京の方はすごく気前がよく、義援金だと皆さん千円札を次々に入れてくださいまして…。

農家の方にその義援金も差し上げたところ、来年もやろうということになり「復興トマトプロジェクト」というのを立ち上げました。これでかなり元気が出ました。また、ここには特産品として、メロンもあります。ハウスも資材もすべて流されてしまい、農家の方が途方に暮れていたのですが、全国のロータリークラブが資金を提供してくださり、14棟のハウスが立ち上がり、栽培が始まっています。

―仙台空港に隣接して工業団地ができていたと伺いましたが、こちらの被害も当然大きかったのでしょうね。

ええ、二野倉工業団地という所は全ての建物が全壊という壊滅的な被害を受けました。仙台空港臨空矢野目鉱業団地内でも全壊建物が41%、それ以外もほとんどが大規模半壊ないし床上浸水という大きな被害を受けています。雇用面の影響も大きく、二野倉工業団地では正社員の雇用が震災前に比べ57.6%も減ってしまいました。
復興に当たっては雇用の創出を図るため、交通の要所である岩沼市の特徴を生かし、新しい分野の企業誘致を含めた産業の振興、特に仙台空港周辺に産学官連携による高度医療技術の研究・開発拠点を整備するという大きな目標を掲げました。

元々、この地区には自動車のサプライチェーンなど技術力のある中小企業が多いのです。今回の震災では医療も壊滅状態になっています。お医者さんも流出してしまい、しかも若い人は来ません。ですから、ここに新しい医療産業を興し、復興の援助をしていこうという目標を立てました。

―これは簡単ではないでしょう。

ええ、簡単ではありません。でも、日本学術会議のいろいろな先生方のお力添えをいただいています。元会長の金澤一郎先生には中心的な役割を担っていただけそうですし、科学技術振興機構の理事長だった北澤宏一先生にもエネルギー関係で助言をお願いしています。岩沼市の各地域の特性を生かして風力発電、太陽光発電、バイオマス、小水力発電を開発、導入し、それら自然エネルギーを活用して地元に仕事と収入をもたらす先端モデル都市を構築することを目指します。

この自然共生・国際医療産業都市と、自然エネルギーを活用した先端モデル都市が復興計画の4番目と5番目に掲げたプロジェクトです。

(続く)

石川幹子 氏
(いしかわ みきこ)
石川幹子 氏
(いしかわ みきこ)

石川幹子(いしかわ みきこ)氏のプロフィール
宮城県岩沼市生まれ、宮城学院高校卒。1972年東京大学農学部農業生物学科卒、76年米ハーバード大学デザイン学部大学院ランドスケープ・アーキテクチュア学科修士課程修了、94年東京大学大学院農学系研究科農業生物学専攻緑地学博士課程修了。工学院大学建築学科特別専任教授、慶應義塾大学環境情報学部教授を経て2007年から東京大学大学院 工学系研究科都市工学専攻 教授。博士(農学)。日本学術会議会員。専門分野は都市環境計画、ランドスケープ計画。岩沼市震災復興会議議長のほか、宮城県震災復興会議委員も。03年欧州連合(EU)国際基金21世紀の公園国際競技設計1位、08年四川vl川大地震復興グランドデザイン栄誉賞受賞。主な著書に「都市と緑地」(岩波書店)、「流域圏プランニングの時代」(技報堂)、「21世紀の都市を考える」(東京大学出版会)など

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