インタビュー

第2回「なぜかを問う展示に」(李 象益 氏 / 中国自然科学博物館協会 名誉理事長、元・中国科学技術館長)

2009.07.30

李 象益 氏 / 中国自然科学博物館協会 名誉理事長、元・中国科学技術館長

「文明都市に必須な科学技術館」

李 象益 氏

中国で科学技術館活動を長い間指導し、最近では活動の場を国際博物館会議にも広げている李 象益・中国自然科学博物館協会名誉理事長が日本科学未来館主催のフォーラム「科学コミュニケーションのネットワーク構築に向けて」の講演者として来日した。中国がなぜ、どのように科学技術館活動に力を入れているのか、李氏に尋ねた。

第二の問題は、科学技術館をどのように刷新するかということです。中国では1980年代初めから現在まで、科学技術館の建設は無知から理解へ、模倣から学んで刷新や特色を強調する発展の過程だったと思います。中でも非常に重要だったのは、世界に学ぶという開放型の路線を採用したことでした。現在は、どのような思想に基づいて建設するのかという点にかなり注意を払っています。自主的な刷新と全面的な開放を組み合わせているのです。自主的な刷新では、主に各館を建設する機構が自身の業務をきちんと管理できるグループを持つ必要があります。つまり、成功する科学技術館を建設するためには、事業に対する意欲があり、科学技術館の理念に理解があり、科学技術館に必要とされるあらゆる技術を把握している技術官僚グループをつくりあげることに力を注がなければなりません。 

これは、おいそれと民間に任せられるものではありません。なぜなら、中国では民間の会社の科学技術館に対する理解、理念、そして技術はまだ未成熟だからです。彼らに任せたら、すべてが借りものにすぎなくなってしまう可能性があります。ですから、まずは私たちが自主的な刷新の必要を強調し、欧州、米国、日本を含む世界から学ばなくてはならないのです。

次に必要なことは、資料集めです。世界中の優秀な科学技術館の理念や展示、優秀な展示品や展示項目をすべて収集し、整理し、分析し、法則などを見いださなくてはなりません。

さらに、どのように社会の勢力を引き付けるか、そして社会の勢力をまとめて科学技術館の建設に生かせるかということを学ばなくてはなりません。例えば、どのように科学院や高等教育機関と連携するか、研究成果や国家の優秀な技術などを、一般大衆が喜んで見たり聞いたりするのにふさわしい形に転換できるかということです。双方向的な参加型であって、科学的、知的、体験型の興味を引く展示品に転換できるかということです。現在中国では各科学技術館がグループを形成して継続的な力をつけるようになってきています。

次に、成功する科学技術館を建設するには、3つの部分が必要となってきます。第一に理念の改善、第二に展示の刷新、そして第三に開館以降の持続可能な発展です。この3つの問題は建設の初期段階において、一つのシステム工程として考慮されなければなりません。例えば、家の中身は建てた後で考える、では大きな矛盾と無駄が発生することは免れないでしょう。内容と建築形式を一緒に考慮することが必要なのです。このような、ある種のシステム工程は、成功する科学技術館を建設するための思想であり、理念の問題であると言えます。

理念とは何かということですが、革新的なテーマを探究する必要があるということです。科学技術の発展にかかわるような実践に照らし、水平統合型価値連鎖(バリューチェーン)の法則に注意する中で創作の源泉を探るのです。しゃくし定規的な考えを避け、科学センターを学校教育の複製版にするのです。そして、科学センターの建設後、数年で時代後れにならないように、かなりの注意を払わなくてはなりません。中国科学技術協会における多数の学術交流を通じて、こうした問題に対する人々の理解は徐々に明確になってきました。理念が非常に重要なのです。

国際社会における刷新の理論には大きな新展開がありました。科学センターの選択は、私たちの主観で何を展示すべきかではなく、公衆が何を求めているかということなのであり、閉鎖的に自主的な刷新をするのではなく、オープンな形で公衆のニーズを理解していく必要があるのです。

理念の刷新により分かったことは、新たな分類が新たな刷新をもたらしたということです。最も初期の時代には学科的に分類していましたが、その後、総合技術的分類に変わってきました。例えば、生命科学、環境科学、情報技術、エネルギー、交通、新材料といった分け方です。最近、ある人により一種の概念的分類が提案されました。例えば、「私の未来は夢ではない」という展示エリアの一つを編成しました。これは人文科学と自然科学のコラボレーションであって、未来の高い技術や理念をそこに含めることができます。このような新たな分類は新鮮さを与えることができます。

また、現在世界で成功している科学技術館の多くが、「なぜか」を問うような展示をしています。現在、私たちの展示品の多くは、「何か」ばかりを説いています。このような「なぜか」と「何か」は、実際には「根本的な理解」と「単なる理解」の違いにあります。根本的な理解とは、理解していることをさらに理解するということです。

もう一点は、革新的技術と方法の問題です。現在は主にバーチャルリアリティにおけるデジタル技術の応用が増えてきていますが、これは科学技術館にとって十分注目に値するものです。そして、方法的側面から見てみますと、現在の展示形式には、シチュエーション+体験+過程、といった一種の教育形式が採られています。日本も科学未来館から奈良の「私のしごと館」まで、大多数が体験形式を採用しています。これは非常に注目に値すると思います。

最後の一点は、科学センターの発展についてです。これは科学の普及の問題だけでなく、さらに一歩深めた科学思想や科学方法の問題なのです。例えば、重要な科学技術の発展の方向性を討論するにも、科学技術の政策を研究討議するにも、すべて科学技術館においてすることができます。科学センターの社会的価値は非常に高いのです。そしてこれからも社会的価値を絶えず高めていくでしょう。

(続く)

李 象益 氏

李 象益 氏のプロフィール
1961年北京航空航天大学卒、その後、同大学でジェット・エンジンを研究。81年中国科学技術館副館長。91年中国科学技術協会科学普及部部長。95年中国科学技術館館長。2000年中国自然科学博物館協会理事長、01年中国科学技術協会会長。現在、中国自然科学博物館協会名誉理事長、中国科学技術協会全国委員会委員。北京市人民政府諮問委員会顧問。北京大学、北京師範大学教授。04年から国際博物館会議執行協議会委員も。

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