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壁壊す意識的行動を! イノベーションの土壌は多様性(原山優子 氏 / 総合科学技術・イノベーション会議 議員)

2015.10.22

原山優子 氏 / 総合科学技術・イノベーション会議 議員

男女共同参画学協会連絡会主催シンポジウム「国際的な視点から見た男女共同参画の推進」(2015年10月17日)ビデオメッセージから

原山優子 氏
原山優子 氏

 現在、第5期科学技術基本計画策定の終盤戦に差し掛かっている。「科学技術イノベーションの基盤的な力の抜本的強化」という章に「女性の活躍促進」という項目を埋め込んでいる。その基本的な考え方は、科学技術イノベーションを生み出すのは「人」、ということだ。さまざまな人が出会い、アイデアを出し合い、協働することにより、科学技術イノベーションのフロンティアが切り拓かれていく。この「化学反応」とも呼べる一連のプロセスが起こりやすい状況にあるか否かが鍵となる。

 この視点から日本の現状を見ると、答えは「まだまだすべきことが山積」ということだ。フロントランナーをキャッチアップする状況にあっては強みとされた人材の「均一性」、「調和性」、「順応性」が、ブレークスルーを狙う際にはブレーキとして作用することもしばしばとなっている。

 また、生産活動の効率性を追求する際に機能してきたセグメント(区分)化された労働市場、言い換えると流動性の欠如や、社会システムにおけるジェンダーによる役割分担、組織における「あうんの呼吸」による意思決定なども、科学技術イノベーションのフロンティアに挑戦する際には足かせとなる。なぜなら、長い年月をかけて社会に埋め込まれたこれらの「制度」は、「人」を既存の枠に閉じ込め、「異」を排除する力として作用するからだ。

 このわなから抜け出すには、壁を壊す意識的な行動と、その「見える化」が必須となる。既存の社会制度そのものへの挑戦であり、この大きな文脈の中に「女性研究者・技術者」の問題は位置づけられる。

ビデオメッセージを送る原山優子氏
写真.ビデオメッセージを送る原山優子氏

より多くの女性が理工系を選択するには

 理工系に進む女性が少ない、俗に言う「男性は理系、女性は文系」の構図であるが、もともと「男性は理工学が好き(理科少年)」、「女性は人文社会学が好き(文学少女)」といったシンプルな構造に由来するものではない。この背景には、日本特有の理系・文系の二分法の文化と、それを再生する教育システムと雇用制度が存在する。よって根が深く、一朝一夕では解決できない。一つ一つ壁を取り除く作業が必要となるが、状況の可視化、情報共有が鍵となる。

 具体的には、大学では専門分野に閉じこもることなく選択肢を与えるカリキュラム構成(理系・文系の垣根を取り除く)が必要だ。女子生徒の進路選択に影響力を持つ教師、保護者などに対して就職先のより的確な情報提供も必要となる。これについては「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」により、来年4月1日以降、企業・大学における取り組みが可視化される。学界、産業界、関連府省の協力による支援体制の構築が必要だ。

女性研究者・技術者が活躍するには

 女性が研究者、技術者として就業する人の数は増加傾向にあるが、国際比較の中では低レベルの状況にある。長時間働くことをよしとする意識や働き方、不透明な雇用・昇進のプロセスも女性の活躍を阻害する要因となっている。この問題の根底に旧来型の雇用慣習が存在するわけで、こちらも一朝一夕で変わるものではないが、これらを見直すことは男女を問わずワークライフバランスの実現には欠かせない。業務内容や評価基準を明確にする、よりオープンで透明化された雇用・昇進のプロセスを試みるなど、その第一歩を踏み出すことが肝心だ。

 政府の施策としては、これまでも研究と出産、育児、介護などとの両立を図るためのさまざまなワークライフバランスに関する支援が行われている。これらの施策は引き続き推進するとともに優れた実践例を幅広く周知し、情報共有することが重要だ。採用目標値の設定や計画の策定だけでなく、ファクト(事実)やエビデンス(証拠)を基盤とした論議や根底にある要因分析など、問題を掘り下げ、見えていないバイアス(偏見)を明らかにし、組織のトップをはじめ関係者の意識そのものを変えていくことも重要だ。

 例えば、マサチューセッツ工科大学(MIT)では、女性教員が給料や研究室の広さなどの男女差を数値で表し、トップに訴えたという事実がある。このように見えていないバイアスを見える化することは、トップの意識を変える一つの方法といえる。

女性はリーダーシップを取りたがらないか

 データを見る限り企業の女性管理職は増加しつつも、国際的にはかなり低いレベルで推移している。研究者の場合、プリンシパルインベスティゲーター(PI)の数、大学の管理職(研究科長、副学長、理事、学長)の数も同じ傾向にある。また、さまざまな意識調査からは「オファー(提示)があっても管理職を辞退する」女性像が浮かび上がる。この現状をどう読んだらよいだろうか。

 既存の組織運営のやり方では、管理職に就くということは、既存のやり方を規範として行動し、スタッフを動かすことを意味する。個人的な経験も踏まえてあえて言うならば、女性は内因的な動機付けを得意とするとともに、職位をかさにパワー(権力)を行使することより、実質的なリーダーシップを発揮することを模索する傾向があると思われる。窮屈な箱に入るか、職位は低くとも自らの活動に集中するか、家庭との両立という時間的制約の中にあって、前者を選ぶには便益があまりにも少ない。ここでも本質的な課題は、既存の組織運営のやり方そのものにあることは明白だ。

 旧来型の組織運営のスタイルは、イノベーションをドライブ(推進)するという観点からも限界を示すものであり、その目詰まりを解消することが急務。その切り札として女性の登用が考えられるが、研究者同様クリティカルマス(最小必要人数)が鍵となる。具体的に打つ手を考える際、まず認識すべきは、管理職に就くことと、リーダーシップを発揮することとは必ずしも同じではないということ。女性リーダーの候補となる女性を探すことに力を入れるとともにプロセスを踏んで、責任ある立場での活動の機会を増やし、いろいろな場を体験させながら育てていくことが重要だ。

女性がイノベーション支える多様な人材に

 科学技術イノベーションを支えるのは、専門分野をリードする卓越した研究者だけではない。イノベーションの構想力、事業家も含めたマネジメント力を持つ人材、イノベーションの現場を支える人材などが知的プロフェッショナルとして、多様な場において、それぞれの能力を適材適所で行動できる状況が望ましい。科学技術イノベーションを支える人材として登用されるようになってきたURA(リサーチアドミニストレーター)やPM(プログラムマネージャー)などは、職としては作り込みの段階にあり、多様な人材を動員することが必要だ。

 これらのあまり過去のしがらみがない職に参入するに当たってのジェンダーのバイアスは相対的に少ない。実質、女性の活躍が目立つ。インターンシップなどを通じて、これらの職に触れる機会を積極的に提供することも一考に値する。

 科学技術イノベーションの土壌は「多様性」。それぞれが持つポテンシャルをフルに発揮できる社会。そのことを認識する社会。既存の既得権にしがみつくことなく、チャレンジする社会。その要求は国、ジェンダーを問わず、普遍的なものであることを皆様と認識したい。

(小岩井忠道)

原山優子(はらやま ゆうこ)氏
原山優子氏(はらやま ゆうこ)

原山優子(はらやま ゆうこ)氏プロフィール
スイス・ジュネーブ大学教育学研究科および経済学研究科博士課程修了(教育学博士、経済学博士)。ジュネーブ大学助教授、経済産業研究所研究員、東北大学大学院工学研究科教授、総合科学技術会議議員、経済開発協力機構(OECD)科学技術産業局次長などを経て、2013年3月から現職。

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