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レジリエンス(復元力)持つ技術体系に(鈴木篤之 氏 / 日本原子力研究開発機構 理事長、元原子力安全委員長)

2012.12.11

鈴木篤之 氏 / 日本原子力研究開発機構 理事長、元原子力安全委員長

原子力機構報告会(2012年11月28日、日本原子力研究開発機構 主催)あいさつから

日本原子力研究開発機構 理事長、元原子力安全委員長 鈴木篤之 氏
鈴木篤之 氏

 福島第一原子力発電所事故は、ひとことで言えば、安全基本原則の一つである「科学的新知見の学習と反映」が適切にできなかったことから起きた、と感じている。それはなぜだったのか。私は、昔、土居健郎先生が唱えられた「甘えの構造」というものがある日本社会の中での、「情報の非対称性」の問題に大いに関連するのではないかと考えている。「情報の非対称性」というのは、情報の出し手と受け手との間には、本質的に情報の偏りがあり、それは基本的に避けられないことだが、「炉心溶融事故は起きない」、「規制は常に正しい」といった「情報の非対称性」に由来する印象を一般市民に与えてきたことが、今回の事故から学ぶ非常に大きな教訓ではないか、と思っている。

 どのようにしてこれを乗り越えるべきか。簡単に言えば、科学的不確かさが常に残っているということを認め、それを許容するだけの深層防護の概念の頑健性が一層強化されなければならない、ということだ。

 次に、安全に対する社会的な要求度もいろいろな形で変わる、ということを前提にする必要がある。それを許容できるだけの説明責任と透明性を確保しなければならない。原子力の専門家集団である日本原子力研究開発機構は、これまでの知見、経験を踏まえて、それらを再構築し、今後さらに磨いていく責務を負っている。

 差し迫ってやるべきことは、何と言っても災厄の克服だ。オンサイト(事故を起こした発電所の現場)では事故解析、原子炉解体に関わることなど、われわれの持つ経験を生かしていかなければならない。オフサイト(放射能汚染された地元)では線量評価、除染活動など、地元の人々の思いを共有できるよう想像力を働かせた取り組みをする必要がある。チームとしての総合力を発揮すべきであり、多くの人々が思いを一つにして取り組むことで一種の化学反応を起こし、想像以上の力を発揮して難しい問題に取り組む人が機構の中から生まれてくるようにしたい。

 今、サステイナビリティ(持続可能性)に加え、レジリエンス(復元性)が重要視されている。それは資源有限系から社会環境調和系にいかに移るかということであり、社会や環境の変化への適用とともに技術自体に潜在する弱点を自己修復できるよう、技術体系が常に復元力を持つ仕組みに変えていくということだ。日本原子力研究開発機構としては主たる事業である安全性研究、核燃料サイクル技術開発などを「復元性の科学」の観点から再生し、真の技術革新を図ることで新たな展望を開くべきだと考えている。

 それには、科学、技術の面に加えて、行動科学的な透明性が必要なことは言うまでもない。

日本原子力研究開発機構 理事長、元原子力安全委員長 鈴木篤之 氏
鈴木篤之 氏
(すずき あつゆき)

鈴木篤之(すずき あつゆき)氏のプロフィール
東京都出身。1971年東京大学院工学系研究科博士課程修了、工学博士。東京大学大学院工学系研究科教授などを経て、2001年原子力安全委員、06年原子力安全委員長、10年6月財団法人エネルギー総合工学研究所理事長、同年10月から日本原子力研究開発機構理事長。専門は核燃料サイクル工学。著書に「プルトニウ(ERC出版)、「90年代のエネルギー-環境制約への挑戦」(共著、日本経済新聞社)など。

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