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もっと政治に科学性を 第1回「若者よ希望を持って科学の道へ」(鳩山由紀夫 氏 / 首相、衆議院議員)

2010.06.10

鳩山由紀夫 氏 / 首相、衆議院議員

博士学生異分野交流フォーラム(2010年6月5日、東工大・東大博士学生異分野交流企画学生グループ主催)基調講演から

首相、衆議院議員 鳩山由紀夫 氏
鳩山由紀夫 氏

 まだ私は内閣総理大臣です。天皇の親任式までは、緊急事態があれば私が対処しなければならない。なぜ突然首相を辞任したのかなど聞きたいことはあると思うが、次は東工大出身の菅直人が首相になるからいいでしょう。ちなみに私は助手として東工大に4年半いたから菅氏より長い。今日は政治から離れて、ドクターとして頑張っている皆さんを前に話をしたい。

なぜ研究者をやめて政治家に転身したか?

 小学生のころ、当時幼稚園に通っていた弟が「祖父(鳩山一郎)のあとはおれが継ぐ」と言っており、政治の世界は弟に任せようと思った。しかし、小学校時代の恩師から「これからは理工系の人たちがこの国をしょって立たなきゃならない。あなた方の努力でこの国の未来が変わる」という話をいただき、小さいながらも漠然と理系に進もうと決めた。

 大学は東大の理科一類に入った。父は理系に進学した自分のことでいろいろと悩んだ様子。あるとき、「数学が世の中のために役に立った試しがあるのか」と聞かれ、何を言い出すのかと思った。理工系が実際にはこの国の基礎で、精緻(せいち)な世の中をつくり上げているにもかかわらず、政治とか行政の分野で認められなかったというのが現実の姿ではないか。

 米国留学中、海外から日本の様子を見ていて思うところがあった。日本に果たして本当の意味での政治があるんだろうかと。また、日本に対する報道がほとんどなかった。政治家の家系に生まれたにもかかわらず、距離を置いている自分はこれでいいのかと思った。そのころ、弟が先に政治に世界に行くと報告に来た。「どうぞ、先に行きなさい。しかし、おれも40代になったら、政治の世界に行くかもしれんぞ」という話を兄弟でした。

 日本に戻り、祖父、父が政治の世界にいたこともあり、自分も政治の世界に行かなくてはいけないと思うようになり、決意し37歳のときに北海道へ移り住んだ。

 北海道では、『夢を形に 今、政治を科学する』というスローガンを掲げた。室蘭の人は誰一人理解してくれなかった。新日本製鉄の鉄炉の火が消えようとしているときになんなんだと。「経済状況が厳しい時に、政治家を目指す人間が政治を科学するなんて言って通じると思うのか」と批判されたが、その標語は捨てないで戦ってきた。本当は今こそそういう言葉が必要なのではないか。むしろ党の中にも科学が必要だと思っている。

 政治を科学するという考え方が今こそ必要だと思ってから二十数年間、本当に政治を科学することができたのか。むしろ科学を政治にしてしまったかもしれない。科学、科学と言いながら、予算をつけるということに、ある意味で力を注いだときもあった。しかし、本当に大事なことは政治、意思決定というものに、もっと科学性を持たせなければいけない。事業仕分けも方向性は間違っていないと思う。無駄をなくす、コストを削減するという議論の中で制約条件はいろいろとつけていきながら、その中で最適な解を、最小のコストの解を見いだすという意味での事業仕分けというのは意味がある話かなと思っている。

ソフトパワーへの投資

 新しい未来を切り開く基本は、ソフトパワー。ソフトパワーとは人材を育てる教育と、人間の可能性を創造する科学・技術だ。日本は、欧米諸国と比べてソフトパワーへの投資が少ない。これから若者の数が少なくなるからより一層イノベーティブな若者の育成が必要となる。

少子化への歯止め

 一方で少子化を食い止める政策も必要。少子高齢化という問題を考えたときに、高齢化への対処にかけるお金のほうが、少子化対策にかける金額よりも15倍ほど大きい。もっと少子化対策をやらないといけない。

 具体的には、子ども手当によって子育ての経済的負担を減らさなければならない。子ども手当が満額(2万6千円)になると、防衛費よりも多くなる。そこまで多くすべきかどうかという議論もあるが、こういった子育てに対して今まであまり国が面倒を見てこなかった。

新成長戦略

 昨年12月30日に新成長戦略を閣議決定した。若者が希望を持って科学の道を選べるように、自立的研究環境と多様なキャリアパスを整備することを目的とする。独自の分野で世界をリードする研究機関を増やすとともに、理工系博士課程修了者の完全雇用を目指す。高等教育において、奨学金制度の充実、大学の質の保証や国際化、大学院教育の充実・強化、学生の企業力の育成を含めて職業教育の推進など、進学の機会拡大と高等教育の充実のための取り組みを行う。初等・中等教育においては、国際的な学習到達度調査で世界トップレベルの順位となることを目指す。

(SciencePortal特派員 深澤直人)

首相、衆議院議員 鳩山由紀夫 氏
鳩山由紀夫 氏
(はとやま ゆきお)

鳩山由紀夫(はとやま ゆきお)氏のプロフィール
東京都立小石川高校卒。1969年東京大学工学部応用物理・計数工学科卒、76年米スタンフォード大学大学院博士課程修了、専攻はオペレーションズリサーチで、博士号(Ph.D)取得。同年東京工業大学経営工学科助手、81-84年専修大学経営学部助教授、86年衆議院議員選挙初当選(自民党公認)、94年新党さきがけ結成、細川内閣官房副長官、96年旧民主党結成、菅直人氏と共に党代表就任、98年民主党結成、党幹事長代理、99年党代表、2005年幹事長、09年代表、09年9月衆議院選挙で民主党が勝利、大学卒としては初の理系出身の首相となる。10年6月2日「クリーンな民主党に戻したい」と首相辞任表明。6月8日同じ理系出身の菅直人首相就任で退任。祖父は首相を務めた鳩山一郎、父は外務官僚から政界に転じ外相などを務めた威一郎、弟、邦夫氏も元総務相の衆議院議員という政治家の家庭に育つ。

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