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コスト安い雪エネルギー利用(ボウ・ノルデル 氏 / スウェーデン・ルレオ工科大学 教授)

2008.07.11

ボウ・ノルデル 氏 / スウェーデン・ルレオ工科大学 教授

雪氷エネルギー国際シンポジウム「地球温暖化を救う、雪氷エネルギー」(2008年7月2日、新エネルギー・産業技術総合開発機構 主催)講演から

スウェーデン・ルレオ工科大学 教授 ボウ・ノルデル 氏
ボウ・ノルデル 氏

 雪の多いスウェーデンでは、雪を用いて冷房や根菜の貯蔵を行い、雪をエネルギーとして有効に活用している。雪をエネルギーとして用いるメリットは、何よりもコストが安いことである。1トンの雪は、100キロワットに相当するエネルギーを有し、そのエネルギーを取り出すにはわずか11ユーロ(約1,800円)のコストで済む。

スウェーデンの利用例

 現在、スウェーデンで実用化されている雪エネルギー利用の事例を紹介する。スンズヴァール(Sundsvall)の病院では、雪冷房が行われている。病院の外の土地に縦横140メートル×60メートル、深さ2メートルの穴を掘り、アスファルトで整地する。

 この穴に病院の周囲の雪を運び入れ貯蔵する。雪の降らない季節は、雪山の表面に木のチップを敷き詰めて雪解けを防ぐ。雪山の内部で徐々に溶けた雪は、0℃の水となり穴の底にたまる。

 その水をパイプに通し、ポンプを用いて病院内に運ぶ。途中、熱交換器を通すことにより約5℃となった冷水が、病院内を循環し冷房を行う。利用後、約10℃に温まった水は、熱交換器を通って5℃まで冷やされ、再び雪山に戻される。この水は、雪がある限り0℃の水に戻り、冷房に再利用される。

 病院では4月下旬から雪冷房を利用し始める。暑さのピークとなる7月後半から8月上旬までと、貯蔵雪が残り少なくなる9月は一般の冷房システムも稼動して補うものの、年間の冷房の大部分を雪冷房でまかなっている。

 このほかの雪エネルギーの利用法に、根菜の貯蔵システムがある。雪冷房に比べて規模は小さいが、雪を倉庫内に貯蔵してその冷気と適当な湿度により、野菜を新鮮な状態で長期間貯蔵することができる。

将来は大都市でも

 これらの雪の貯蔵法は、屋内貯蔵、または少し穴を掘って雪山を作るという方法だが、将来的には地下に大きな穴を掘り、10万立方メートルの雪を地面の下に貯蔵するという構想がある。この方法のメリットは、都市部でも雪貯蔵ができることだ。

 これまでの雪貯蔵は、大きな雪山をつくる場所が必要なため、通常、郊外で貯蔵と利用が行われていた。法的にクリアしなければならない問題はいくつかあるが、地下貯蔵が実現できれば、ストックホルムのような大都市でも雪エネルギーを利用できる。また、地下貯蔵は、地上での貯蔵に比べ、温度変化が小さいので融解ロスが少ないのも魅力だ。

 まだ実験的な試みではあるが、雪や氷を用いた日常生活の楽しみについても考えている。水を凍らせると体積が増えるため、閉鎖空間では圧力がかかる。この圧力を推進力に変えた乗り物(Icy Rider)を開発した。水を凍らせるだけで動く車である。Icy Riderは今のところ、約400メートルのドライブができる。エネルギー問題を考える場合、こういった「楽しむ」という視点も大切だ。

 このような雪氷エネルギーの利用については、国内でさまざまなメディアで紹介されているので、一般の人々にある程度は認知されている。一方で、政府レベルで雪氷エネルギーの利用という政策にはなかなか結びついていないのが現状で、今後の課題である。

日本の雪氷エネルギー利用について

 シンポジウムの前に、洞爺湖サミットの取材基地である「国際メディアセンター」を視察した。床下に雪室が設けられ、雪冷房に利用されるというすばらしい施設だ。ほかにも、このシンポジウムのプレゼンテーターが紹介した雪や氷を利用した日本の農作物貯蔵システムや冷房システムから、学ぶべき点も多い。スウェーデンの農家にも、日本の雪氷利用のいい点を伝えていきたい。

(北海道大学大学院 文学研究科 研究推進室員 森岡和子)

スウェーデン・ルレオ工科大学 教授 ボウ・ノルデル 氏
ボウ・ノルデル 氏
(Bo Nordell)

ボウ・ノルデル(Bo Nordell)氏プロフィール
スウェーデン・ルレオ工科大学教授。再生可能エネルギー研究グループリーダーを務め、主に熱エネルギー貯蔵、雪氷利用、地域温暖化対策などの分野に取り組んでいる。特に大規模冷熱貯蔵のための雪氷利用に関する研究業績で世界的に知られる。また国際エネルギー機関(IEA)でエネルギー貯蔵実施協定のプロジェクトマネージャーなどを務め、エネルギー貯蔵の革新的技術開発の促進、省エネルギー効果、環境保全効果の評価などに貢献している。

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