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市民のためのリモートセンシングに(上林徳久 氏 / リモートセンシング技術センター 研究部 主任研究員)

2008.06.06

上林徳久 氏 / リモートセンシング技術センター 研究部 主任研究員

シンポジウム「21世紀の科学技術リテラシー」(2008年5月25日、社会技術研究開発センター 主催)パネルディスカッションから

リモートセンシング技術センター 研究部 主任研究員 上林徳久 氏
上林徳久 氏

 このほど成立した宇宙基本法により宇宙政策は開発中心から利用中心に変わりました。これまでのリモートセンシングや衛星データの利用については、一部の研究者、技術者による研究利用や行政利用にとどまっており、ほとんど一般の人々のニーズには対応していませんでした。実際に行われたのは、画像処理アルゴリズム開発や論文作成のための事例研究がほとんどです。地域に住む人々が衛星画像を見て役に立つ情報を得られるような、一般市民のニーズに対応し、社会システムを変える情報源としてのリモートセンシングの利用が今求められています。

 私はNPO法人アサザ基金と協力し、リモートセンシング利用における主役の交代、地域活動における主役の交代を目指す活動を進めています。必ずしも住民のニーズに沿ったものではない役所のニーズによりがちな従来のやり方ではなく、地域の人々が主役となった地域再生を進めていきたいと考えています。対象フィールドとしては霞ヶ浦周辺に続き、秋田県八郎湖周辺、北九州市、東京都内などでも衛星画像データなどを用いた自然再生、地域社会再生の試みを展開していく予定です。

 茨城県や秋田県の小学生が、どれくらい衛星画像から生き物のすみかを判読できるかを調べた結果、大変興味深いことが分かりました。クラスの3割から6割の小学生が生き物のすみかを読み取ることができたとの回答がありました。興味深いのは、そのうちのほとんどの子どもが外で遊ぶと答えていたことです。外でよく遊ぶことによって経験知が蓄えられ、それが衛星画像判読能力に結びついている可能性が高いと考えられます。

 また、白神山地の猟師、マタギに衛星画像を判読してもらったところ、判読の仕方を少し教えただけで、後は自分で情報をどんどん読みとっていきました。地域住民は地域の衛星データから地域の情報を抽出するために必要な経験知を持っています。その地域に関する知識や経験を蓄積している住民こそが、衛星画像を利用し、地域環境に関する貴重な情報を得ることができると思います。それらの判読結果をわれわれ研究者が収集、編集、検証し、判読支援知識としてフィードバック、教育、訓練することで地域環境情報を獲得するスキルを多くの住民が獲得することができると思います。

 これまでのように研究者が勝手に画像処理してユーザーに押しつけるのではなく、地域住民自身が地域に必要な情報を地域住民のために衛星画像から抽出し、地域の課題に対して積極的にかかわることを可能にする技術(私はこれをコミュニティリモートセンシングと呼んでいます)を広く一般国民のための技術として普及させることが今こそ必要と考えます。

リモートセンシング技術センター 研究部 主任研究員 上林徳久 氏
上林徳久 氏

上林徳久 氏プロフィール
高知大学農学部林学科卒、筑波大学大学院環境科学研究科修士課程修了。専門は環境、森林のリモートセンシング。ここ数年は、新しいリモートセンシング分野として、一般市民のための「コミュニティリモートセンシング」を提唱し、全国の小中学校生徒や地域住民による衛星画像判読実験を通して、その有効性の実証を積み上げ続けている。

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