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里地里山の自然環境を生き物の視点で数値化する新指標を考案

掲載日:2017年7月11日

水田やため池、雑木林などが複雑に入り混じり、集落に隣接する自然環境は「里地里山」と呼ばれ、日本の生物多様性を支える重要な景観とされている。しかし近年、農地の担い手不足を含むさまざまな問題から耕作が放棄された田畑や山林が増え、里地里山の景観とそこに生息する生物を維持していくことが難しくなっていると指摘されている。国立環境研究所福島支部の吉岡明良(よしおか あきら)研究員らの研究グループは、里地里山の自然環境の豊かさを数値化して評価する新たな指標を考案した、とスウェーデンの科学誌電子版にこのほど発表した。これまでの指標を新しい発想で改善した新指標で、里地里山の環境の実態をより正確に評価することができるとみられ、里地里山の保全に役立つと期待される。

吉岡研究員らが考案したのは「農地景観多様度指数Dissimilarity-based Satoyama Index (DSI)」。里地里山を数値化して評価する方法としてはこれまで「Satoyama Index(SI)」や「Modified Satoyama Index(MSI)」が知られていた。DSIを含むこれらはいずれも、6キロ四方の土地の中の水田や畑地、森林などの土地利用の割合を基に、里地里山の環境の豊かさを数値化して評価するもの。水田だけの環境よりも、そこに畑地や森林が入り混じるなど、多様性の高い土地ほど評価が高くなる仕組みだ。

この中で従来の指標は、広い環境を同じ指標で評価できる利点がある一方、水辺の生物が暮らす水田と乾燥した耕作放棄地の混在で評価が高くなるなど、生物多様性の実態と異なる評価が生じる可能性があった。このため、DSIは、畑地と草地といった似た環境よりも、水田と森林といった大きく異なる環境が混在する土地ほど評価が高くなるよう評価の仕組みを変えた。これは、異なる環境が入り混じる方が、より多様な生物の生息が期待できるためという。

また、研究グループは新たに衛星画像から得られる自然環境情報も評価に反映させた。衛星画像の評価を組み合わせることで、水辺の生き物を育む水田と、耕作放棄や転作がなされた土地を区別することが可能となり、生物多様性の実態に近い評価が出せるため。

研究グループはこの新指標が里地里山の実態をどの程度正確に評価できるか検証した。具体的には環境省がデータベース化しているイトトンボの全国の分布情報と照合した。イトトンボは、湿地や水田といった流れの少ない水辺に生息するため、里地里山の環境を測る上で指標となりやすいという。検証の結果、新指標で評価が高く出た場所ほどイトトンボの種類数が多い傾向にあることが確認できたため、新指標を反映した全国地図を作成した(図参照)。

里地里山の環境の変化は、政府が2012年に定めた「生物多様性国家戦略」の「4つの危機」の一つに挙げられている。里地里山の生物多様性を守るためには、環境の経年変化を知ることが欠かせないとされる。吉岡研究員らは、今後新指標を用いて、過去の土地利用図から里地里山の環境の経年変化を可視化したいとしており、東京電力福島第1原発事故で指定された福島県内の避難指示区域の環境の変遷も可視化したいという。

図 (a)今回作成された新指標DSIの全国地図と、(b)従来型の指数で作成された全国地図。(a)のDSIを用いた全国地図では従来の指標よりも低い評価の土地が目立つ。研究グループによると、イトトンボの生息情報で検証すると、(a)の評価がより実態に近かったという。(国立環境研究所提供)
図 (a)今回作成された新指標DSIの全国地図と、(b)従来型の指数で作成された全国地図。(a)のDSIを用いた全国地図では従来の指標よりも低い評価の土地が目立つ。研究グループによると、イトトンボの生息情報で検証すると、(a)の評価がより実態に近かったという。(国立環境研究所提供)
写真 新指標の検証に用いられたイトトンボ(写真はイトトンボの1種のエゾイトトンボ)
写真 新指標の検証に用いられたイトトンボ(写真はイトトンボの1種のエゾイトトンボ)
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