ニュース

土壌中の放射性セシウム、「食塩」「真空」「800度」で9割除去 原子力機構

2025.08.21

 放射性セシウムで汚染された土壌について、塩化ナトリウム(食塩)を加えて真空中で800度に熱すると、短時間で9割のセシウムを除去できることを日本原子力研究開発機構(JAEA)が発見した。高速のイオン交換という新しい現象が関わっていたとみられる。今後2年ほどかけて、10キログラム程度の土壌でも低コストで除去できるかなど、実証実験を進める予定という。

放射性セシウムで汚染された土壌(左)と、食塩を加えて真空中で800度に熱してセシウムを9割除去した土壌(JAEA提供)

 2011年の東日本大震災で被災した東京電力福島第一原子力発電所から出た放射性セシウムは、雨などとともに地上に降った。セシウムは土壌にある粘土鉱物の層状構造中にイオンとして入り込むため、除去が難しい。一方、放射性セシウムの同位体のうち、セシウム137の物理学的半減期は30年で、環境汚染が長く続く。そのため、低コストで効率の良い除染方法の開発が求められている。

 JAEA原子力科学研究所先端基礎研究センター耐環境性機能材料科学研究グループの下山巖研究主幹(材料科学)によると、これまでの除染方法は、放射性セシウムを含んだ土壌を食塩などと一緒に1000~1300度で溶かし、気化したセシウムを除去するというものだ。ただ、加熱するほどエネルギーコストがかさむので、処理温度の低減化が課題だった。

 下山研究主幹らは、真空中ならば低温でもセシウムが気化しやすくなり、除染効率が上がるかもしれないと考えた。試料として福島県富岡町で土壌を採取し、環境省が廃棄物を安全に処理するための基準として示す1キログラムあたり8000ベクレルを超えた、1万ベクレルの放射能濃度があることを確認した。

 土壌と同量の食塩を、大気の1万分の1程度となる気圧10~20パスカルという真空に近い状態で加熱。すると、600~700度で放射性セシウムの除染率が上昇し、約60分後の800度では約9割に達した。水溶液中の反応では約5000分をかけても、除染率は3割未満にとどまっていた。

福島県富岡町の土壌4グラムと食塩4グラムをるつぼに入れ、真空に近い10~20パスカルで加熱し、食塩を水で洗い流し、土だけを集め、セシウムをどれだけ除去できるか調べた(JAEA提供)

 真空にする作業をせず、そのまま大気中で800度まで加熱しても除染率は真空中の6分の1程度だった。また、食塩を混ぜない場合、真空にしても期待したほど除染率が上がらなかった。

真空中(青い菱形)と大気中(赤丸)で放射性セシウムに汚染された土を食塩と一緒に加熱した時の温度による除染率(左のグラフ)。右のグラフは食塩なしで加熱した時の除染率(JAEA提供)
真空中で放射性セシウムの汚染土壌を食塩と加熱すると、土壌の粘土鉱物の層間距離が最初は広がり、セシウムとナトリウムのイオン交換を経て、距離が狭まることを示すグラフと模式図(JAEA提供)

 真空中で食塩を加えたときに低温で除去できた原因として、下山研究主幹らは土壌においてセシウムイオンが入り込んでいる粘土鉱物の層状構造に注目。X線回折実験などを行うと、粘土鉱物は加熱によって500度までは層と層の距離が開いていくが、さらなる加熱で700度になると層間距離を急激に縮めていた。

 真空中では700度で食塩が固体から液体を経ず気化していたことや、食塩より低温でセシウム除去が始まることなどと合わせると、粘土鉱物中の層状構造が広がってできた隙間からセシウムイオンが出ていく代わりに、同じ陽イオンだが少しサイズの小さいナトリウムイオンが入り込むイオン交換が起き、ナトリウムイオンを挟み込むことで層間距離が縮まったことが判明した。

 「イオン交換は水溶液中ではなじみがある。除染において、真空中で起きる高速なイオン交換というのは新しい現象だと思う」と下山研究主幹は話す。今後、基礎研究としては食塩以外の添加剤の効果を試す。実証試験としては第1段階として2年間で10キロの土壌で効率良く除染できるか確認し、第2段階では100キロにするなどスケールアップして効率を検証していくという。

 研究は、6月19日付けの国際学術誌「ジャーナル・オブ・エンバイロメンタル・マネジメント」電子版に掲載された。

関連記事

ページトップへ