温度を100度以上に加熱した「過熱水蒸気」を用いてお米を炊くと、米粒内が小さな空洞をもつ多孔質の構造になることを大阪公立大学などのグループが明らかにした。電気炊飯器で炊いたご飯より冷蔵保存時に硬くなりにくく、おいしさを保つことを官能検査で確かめた。食べるまでは冷蔵庫に入れておきたい寿司などに向けた炊飯方法の開発につながるという。

ご飯は冷たくなると硬くなって粘りがなくなる。米が加熱によってデンプンと水が結びついて「α化」した状態だったのが、水が抜けてデンプンが「β化」し、ボソボソになるからだ。家庭でご飯を保存する時には小分けしてラップに包んで冷凍する方法もあるが、給食など電子レンジによる再加熱ができないぐらいの大量の白飯を扱う時や、寿司を食べるまで保存する時などには、安全性などの面から冷蔵する必要がある。
大阪公立大学大学院生活科学研究科の石橋ちなみ講師(調理科学)は、同科の竹中重雄教授が研究している過熱水蒸気で炊飯すれば、冷蔵保存してもおいしいご飯が炊けるかもしれないと考えた。過熱水蒸気とは、飽和水蒸気を常圧で100度以上に加熱した気体状態の水。乾燥・焙煎、殺菌、酵素の不活化などに使われている。炊飯ではエースシステム(大阪府和泉市)の過熱水蒸気調理機を用いた。

実験には、あきたこまちを用いた。300グラム(2合)の白米を3回水で洗い、手で米が割れない程度に20回といだ後、水を450グラム加えて1時間浸水。浸水した米は、120~130度の蒸気を送り出す過熱水蒸気調理機と、底に搭載したヒーターで釜を加熱する電気炊飯器とで炊飯した。
炊けたご飯をかき混ぜて冷ました後で重さを測ると、過熱水蒸気調理機は平均737.2グラムで、電気炊飯器は同677.3グラムだった。過熱水蒸気での炊飯の方が水分を多く含んでいたとみられる。セ氏4度で24、48、72時間保存して、保存時間ごとに米粒を破断する力を測ると、炊きたては同じ硬さだったのが、4度の保存で電気炊飯器の方が硬くなった。
走査電子顕微鏡で米粒内の微細構造を観察すると、過熱水蒸気調理機で炊いた米は、電気炊飯器よりも小さな空洞をもつ多孔質な構造だった。炊飯時にα化を起こす温度60~70度の時間が電気炊飯器では長く、糊化により構造が不安定化した空隙がくっついて大きくなっている可能性がある。水分が細かく分布することによりデンプンのβ化が抑制されると考えられるという。

過熱水蒸気調理機と電気炊飯器で炊いて4度で24時間冷蔵保存したご飯を20~22歳の29人に食べ比べてもらうと、過熱水蒸気のご飯の方がやわらかく、つやがあり、総合的な満足度が高いという結果だった。

石橋講師は「今後は過熱水蒸気による炊飯によってご飯のおいしさが保たれるメカニズムや、冷蔵保存における最適な温度や時間を調べることで、酢飯など調味米飯の冷蔵保存にも適用できる炊飯技術の開発につなげたい」という。
研究は、エースシステムと共同で行い、4月30日に食品関連の学術誌「フードアンドヒューマニティ」電子版に掲載された。
関連リンク
- 大阪公立大学プレスリリース「-冷蔵保存してもおいしい炊飯方法の開発へ-過熱水蒸気で炊いたご飯の微細構造を解明」