外部のユーザーが利用できるマシンとしては世界最大級となる超電導量子コンピューターを、富士通と理化学研究所が開発した。量子計算の基本単位である量子ビット数を256とし、2023年に開発した国産初号機の64から4倍に拡張した。チップの立体配線を生かし、また冷凍機内の高密度化を進めるなどして大規模化を果たした。来月から、企業や研究機関が利用できるようにする。

開発した256量子ビット機は、理研が文部科学省の助成を受け2023年3月に公開した国産初号機をベースに開発した2号機を、さらに拡張したもの。開発にあたり(1)配線をチップの横ではなく裏から垂直に取り付ける立体構造により、大規模化に伴う配線レイアウトの困難を回避した。(2)計算を担う量子ビットチップを絶対零度近くまで冷やすための冷凍機は、開発時点で64量子ビット機のものが最大だった。同じものを使用しながら、内部の部材配置を緻密化して実装密度を4倍にした。――こうした工夫により完成し、埼玉県和光市の理研に設置した。
海外に1000量子ビット級機を開発したとの情報もあるが、外部ユーザーが利用できるものではこのマシンが最大級という。企業や研究機関が用途の開拓や、計算エラーの訂正技術の実験などに利用していく。来年には1000量子ビット機の開発を目指す。

理研量子コンピュータ研究センターの中村泰信センター長は先月22日の会見で「量子ビット数だけが性能ではなく、制御の精度やエラー率低減、いかに高度な計算をするかが重要だ。1000量子ビットにアップすればまた新たな課題が見え、新しいアイデアが生まれるだろう。マイルストーン(道しるべ)を置いて進め、ブレークスルーに繋がっていくことを期待している」と説明した。
富士通量子研究所の佐藤信太郎所長は「量子コンピューターが将来、本当に使えるものになるには、性能に加えコスト面も追いかけねばならない。われわれが大規模なものを作る戦略を作り、いろいろな方が協力してくれる関係性をうまく作り上げ、進んでいきたい」とした。
一方、量子、AI(人工知能)技術の研究や産業界との連携を推進する、産業技術総合研究所の拠点「量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT=ジークウァット)」の本部棟が茨城県つくば市に完成。今月18日に落成式を行った。量子コンピューターをめぐる研究力向上や人材育成、産業競争力強化に向けた取り組みが各所で加速しそうだ。

量子コンピューターは、物質を構成する原子や電子など「量子」の世界の物理法則「量子力学」に基づき計算する。従来のコンピューターは半導体にかかる電圧の高低によって0と1を表し、2進法で演算する。これに対し量子コンピューターは、量子力学の世界の、0と1が重なって同時に存在する状態を利用し、多数の計算を並列化する。社会の情報量が飛躍的に増え続ける中、既存技術による半導体の微細化では限界があり、量子コンピューターが革新的な情報処理を実現する基盤技術として期待される。
量子コンピューターには複数の方式が提唱され、超電導状態の電子回路を使う「超電導方式」の研究が先行。ただ、イオンを真空中に閉じ込める「イオントラップ方式」が急展開。レーザーで原子を制御する「中性原子方式」、光の量子である光子を使う「光方式」、半導体に閉じ込めた電子を扱う「半導体方式」の研究も活発で、本命はまだ見通せていない。本格的実用には数万~数百万量子ビットが必要ともいわれ、また計算のエラーを訂正する技術や制御技術などが大きな課題となっている。従来のスーパーコンピューターを代替するのではなく、特性を生かして連携させる「ハイブリッドコンピューティング」が進むと見込まれる。
