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帝王切開後の合併症の原因除去 聖路加国際病院が新しい術式開発

2025.05.22

 帝王切開手術後に子宮の中にできた「へこみ」を除去する新しい術式を、聖路加国際病院の研究グループが開発した。へこみが原因で合併症として不妊や不正出血が起こることがあり、その治療法となる。子宮に腹部側から針を2本、牛の角のように刺してガイド(目印)にし、腹腔鏡手術によりへこんだ部分だけを取り除く。針の形からおうし座を意味する「タウルス T メソッド」と名付けた。

 帝王切開は出産時に古くから行われている術式で、対象となるのは、赤ちゃんが苦しんでいるケース、多胎児、逆子のときなどがある。厚生労働省によると、一般病院での全分娩に占める帝王切開の割合は2023年で29.1パーセントと、年々増加傾向にある。

 近年、帝王切開で出産後に不妊治療を受けても次の妊娠がうまくいかないケースが見つかっている。また、帝王切開後、不正出血が続いたり、月経痛がひどくなったりという合併症に悩む患者も少なくない。これらの患者は、子宮頸部に近いところにへこみができている。へこみには血液などがたまりやすく、物理的な要因が次の妊娠などに影響していると考えられている。

 このへこみによって起こる様々な症状を「帝王切開子宮瘢痕(はんこん)症」といい、対処するための手術は2022年に保険適応になった。だが、子宮の外からは見えないへこみを正確に取り除き、きれいに縫い合わせるのは難手術で、実施件数が著しく少なかった。また、なぜへこみができるのかも分かっていない。

「帝王切開子宮瘢痕症」は近年、世界的にも注目されている疾患の一つだが、手術が難しいという欠点があった
「帝王切開子宮瘢痕症」は近年、世界的にも注目されている疾患の一つだが、手術が難しいという欠点があった

 聖路加国際病院女性総合診療部の平田哲也部長(生殖内分泌医学)らのグループは、帝王切開子宮瘢痕症に対し、より簡単に、正確なガイドに沿って手術ができないか研究を続けてきた。子宮のへこみは子宮の内側からでしか観察できず、そのへこみを子宮の外から正確に切除する必要がある。

 先行研究で、通常は子宮内部を生理食塩水で満たして行う子宮鏡検査(内視鏡検査)を、水を使わず見ることで、子宮鏡と腹腔鏡を同時に行い、へこみの部分を腹腔鏡で正確に切除する方法を確立していた。

 今回は、より正確に、かつ、余分な組織を取らないで済むよう、目印を付ける手法を生み出した。子宮鏡で観察された病変の部位に腹部側から2本の針を刺し、子宮鏡でわかったへこみの場所に光を当てて子宮の外(腹腔鏡)からわかるようにする。次に、子宮全体を曲げて針に角度を付けることで柔らかい子宮を固定する。この針を目印にT字に切開し、子宮のへこみがある部位をきれいに取り除いたあと、縫い合わせる。

 この術式を2本の針が子宮の曲げによって角度を付けて開く様子から、おうし座を意味する「タウルス」に由来し、「タウルス T メソッド」と呼ぶことにした。

タウルス T メソッドの模式図。術後はへこみがなくなり、平坦な子宮になる(平田哲也部長提供)
タウルス T メソッドの模式図。術後はへこみがなくなり、平坦な子宮になる(平田哲也部長提供)

 帝王切開手術後の実際の臨床例に用いたところ、41歳の女性は不正出血が続くことを主訴として来院したが、術後は出血が止まった。体外受精を4回行っても妊娠に至らず、不妊を主訴として来院した35歳の女性は、術後に妊娠に至った。この手術を受けた女性の5~7割が次の出産ができているという。タウルス T メソッドは組織を取り除いた後、病理検査に出しやすいという利点もある。

 平田部長は「妊娠率を上げることも目標なので、手術後の経過についても観察していきたい」としている。そして、「この帝王切開子宮瘢痕症は、医療によって引き起こされる『医原病』の一つ。どういった帝王切開でなりやすいのか、例えば予定された手術なのか、緊急オペなのか、子宮口の状況はどのような場合に起こるのかといった、『なりやすい状況』についても調べたい」と話した。聖路加国際病院には、タウルス T メソッドの見学のために全国から産婦人科医が訪れているという。

 成果は米国生殖医学会誌「ファティリティ アンド ステリリティ」電子版に3月28日に掲載され、4月15日に聖路加国際大学が発表した。

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