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H3初号機失敗、背景に「実績重視、対策や確認の不足」文科省が報告書

2023.10.30

 今年3月の大型ロケット「H3」初号機の打ち上げ失敗について、文部科学省は原因究明や再発防止策を盛り込んだ報告書をまとめた。過電流が生じ、2段エンジンに着火できなかった。2号機以降で、過電流の原因として考えられる3通りのシナリオ全てに対策を講じる。失敗の背景には、長年の装置の実績を重視したことや、対策や確認の不足があったなどと指摘した。

打ち上げられるH3ロケット1号機。この後、2段エンジンに着火せず失敗した=3月7日、鹿児島県南種子町(サイエンスポータル編集部 草下健夫撮影)

 H3初号機は3月7日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)種子島宇宙センター(鹿児島県南種子町)で打ち上げられたものの、2段エンジンに着火せず失敗。搭載した地球観測用の先進光学衛星「だいち3号」を喪失した。

 報告書は、文科省の有識者会合である宇宙開発利用部会の調査・安全小委員会が今月26日にまとめ、同部会が決定した。原因を2段エンジンの電気系統で起きた過電流と特定。その発生シナリオについて(1)エンジンの着火装置でショートが発生した、(2)着火装置への通電で過電流が発生した、(3)計算機からの指示を受けてエンジン周りのさまざまな制御をする装置の2系統のうち一方で過電流が起き、トラブルに備えたもう一方にまで波及した――の3通りが考えられるとした。

 2号機以降で、3つのシナリオ全てに再発防止を施すこととし(1)着火装置の部品の絶縁や検査の強化、(2)トランジスタに加わる電圧が定格内となるよう部品を選ぶ、(3)原因の可能性がある部品「定電圧ダイオード」はなくても問題ないため、回路から削除する――ことを盛り込んだ。

 それぞれのシナリオが成立する背景として、(1)1994~99年に運用した大型ロケット「H2」以来の実績を重視したことや、装置内部の製造後の状態変化を考えた対策がなかったこと、(2)H2以前から使われている機器をH3に適用する際、部品の適合性の評価が十分か確認しなかったこと、(3)定電圧ダイオードなどが異常現象に耐えるかの確認が不足したこと――を指摘。それぞれの対策や、電気系開発の強化など、信頼性向上の取り組みを提示した。

 H3失敗後、文部科学省とJAXAが対策本部を設置。JAXAが製造や検査、飛行の記録解析、再現実験などを行い、原因を識別して絞り込む「故障の木解析」を進めた。JAXAの報告を受け、文科省の調査・安全小委員会が審議してきた。

 小委員会はJAXAの一連の報告を「合理的な説明がなされている」と評価。原因を一つに絞り込まず、否定できない全てのシナリオに対策を講じることは「原因究明に一定のスピード感が求められる中で、リスクを十分に低減した上での合理的な判断」と認定した。

 報告書をまとめた26日の会合で、木村真一座長(東京理科大学教授)は「私自身は成功と失敗の二元論は好きではなく、あるのはチャレンジとその結果。意図通りかは別にして、結果から汲み取り、次につなげるプロセスが最も大事だ。事象を真摯に追究し、十分な知見を汲んで報告書となった。次のチャレンジに向かうべき時に来た」と述べた。

 H3は2001年から運用中の「H2A」の後継機。H2Aの47号機は、H3失敗の原因となった疑いがありH2Aと技術的に共通する要素について、絶縁や検査強化などの対策を施した上で、三菱重工業により先月7日、打ち上げに成功している。

 JAXAは今後、H3ロケット2号機の早期打ち上げを目指す。予定していた大型の地球観測衛星「だいち4号」ではなく、衛星のダミーを搭載する計画に変更。これにキヤノン電子などの超小型衛星2基を、“失敗時の補償なし”を条件に無償で相乗りさせる。

 JAXAでは昨年秋以降、問題が相次いでいる。昨年11月、医学系研究に不正があったことを公表。同10月の小型ロケット「イプシロン」6号機の打ち上げ失敗に続き、今年3月にH3初号機が失敗した。さらに7月、開発中の「イプシロンS」の2段機体の燃焼試験中に爆発が発生している。一連の問題を受け、JAXAは組織内のマネジメントや内部統制の課題を明確にし、改善策を検討する「マネジメント改革検討委員会」を、先月28日付で設置したことを今月26日に公表した。

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